第36章 A ray of light
タッタッタッタッ—
純白のワンピースをはためかせながら ひた走った。
聞こえるのは地面を蹴る音と呼吸音だけ。
闇に溶けていた大地は刻一刻とその輪郭と色を浮かび上がらせ、景色が一段とはっきり見える度、エマの緊張は高まっていく。
……いない、大丈夫だ。
今のところ、巨人の姿は見えない。
もっとうじゃうじゃいるかと思ったが、周囲を見渡しても在るのはだだっ広い草原と、所々で群生する広葉樹だけだ。
本当にここが巨人の巣窟と化した壁外なのか?
あまりの穏やかさにそう思ってしまいそうにる。
このまま巨人と遭遇せず、辿り着けるだろうか…
願わくばそうあってほしいと思いながら走っていると、目の前になだらかな丘陵が迫った。
この丘に登れば、目的地である廃村の風車が見えるかもしれない。
しかし、
「痛っ!」
不意にピリと痛みが走り、足を止めてしまった。
痛みのあった右の踵を見ると、皮がべろりと捲れてしまっている。
無理やり履かされたパンプスで走り続けていたせいか、ひどい靴擦れを起こしていた。捲れた部分は薄く血が滲んでいる。
くっ、まだ村まで距離があるのに…!
エマは突然のハプニングに焦った。
それでもこんなところで止まるわけにいかないと再び走り出したが、やはり痛くて今まで程の速度は出せなくなってしまった。
体力的にはまだ走れるのに、とにかく靴擦れが痛くてたまらない。速度は落ちてしまったがなんとか丘陵を登りきった。
その頃には、東の山から朝日が頭を出し始めていた。
その眩しさに一瞬目が眩んでまた立ち止まる。
少しずつ目を慣らしながら、一旦廃村を探してみようと辺りを見回した。
しかしその時、飛び込んできた光景にエマは愕然とすることとなる。
「……う、そ…」
座っていたり、寝そべっていたり、直立不動であったり…ざっと見て10体程だろうか。
丘陵を下った先には、至る所に巨人がいた。
遠目からでも大きすぎる体。人間の姿形をしているのに、その表情はどこか人間味を失ったような、とにかく不気味で、
—悍ましい—
実験施設で見た時と比じゃない恐怖がエマを襲う。
さらにそこに追い討ちをかけるように、容赦のない現実が突きつけられた。