第36章 A ray of light
そうだ…ここまで頑張ってきたんだ。
エルヴィン団長とも約束したじゃない。
生きて、生き延びて、もう一度皆に…
リヴァイさんに…
〝エマ〟
もう一度、名前を呼び合うんだ。
もう一度、温もりを感じ合うんだ。
もう一度……
こんなところで運命に屈してたまるか。
こんなところで、死んでたまるか。
エマは俯いたまま歯を食いしばり、拳を硬く握りしめた。
体の震えはスッと収まり、あれだけ強く己を支配していた恐怖も消えた。
その代わりに、巡る血液が沸騰したみたいに全身が熱くて、身体の芯から力が漲ってくるような、そんな感覚を覚える。
大切な人たちが、最愛の人が、信じて待ってくれている。
私は、ひとりじゃない。
……絶対に諦めない。
エマは顔を上げ男達に向き直ると、静かに口を開いた。
「……つまらないですね」
「ん…?何がだ?」
「あなた達のことをつまらないと言ったんです。他人の不幸でしか心を満たせない、さもしい人たち。
…人生にこんな愉しみしか見いだせないなんて、とても憐れだ。」
男達が憎いだとか怒りだとか、そんな感情は別にない。
ただ彼らに対し抱いた思いを率直に口にした。何も言わずに去るのは嫌だった。
男達は先ほどとは180度変わったエマの態度に唖然とし、言い返すのも忘れてしまったようだ。
傍の憲兵に焦ったような声色で咎められたが、エマは無視して話しかける。
「お話は以上ですか?なら早く連れてってください、壁の外へ」
「お前なんだその口の聞きか」
「早く」
憲兵を見上げるエマの目は光を失っていない。
凛とした、強い瞳だ。
狼狽る男達の横を通り過ぎ、エマは憲兵に引かれ、運命の扉の前へ立った。
人ひとりが通り抜けられるくらいの小さく頑丈な扉。そしてこのたった一枚の隔たりの向こうに、安寧はない。
数人の憲兵に囲まれながら、幾日ぶりに両腕が自由となる。
エマは目を閉じ、薄く息を吸って吐いた。
「これより、エマ・トミイの処刑を執行する。」
この先に待っているのは、希望だと強く信じて。
エマは閉じていた瞼をゆっくり開けた。