第36章 A ray of light
まるで最期に贅沢でもさせてやろうと、そう言われているかのようで。
とにかく不気味で怖くて、じっとしているとおかしな方向にばかり考えてしまいそうだったから、エマは必死に作戦のシュミレーション繰り返してなんとかやり過ごした。
そうして2日間を乗り越えたのだ。
そして迎えた3日目の深夜、部屋を発った。
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「ほほう…この期に及んで、まだそんな目を向けられるとは感心する。」
男は少女の反抗さえも愉快そうに見る。パッと手を離されたけれど、エマは睨むことは止めなかった。のだが、
「しかし公爵のアイデアは素晴らしい。美しい娘が、絶望しながらもなお生にしがみつき、壁の外を逃げ惑う姿はさぞ雅かと。」
「?!」
それを聞いた瞬間、極度の恐怖と緊張が、少女に襲いかかった。
石のように強ばるエマの目の前で、男達の会話は愉しげに続く。
「そうだろう…やはりわしの目に狂いはなかった。端麗な娘だからな。間違いなく素晴らしいものが見れる。」
「この格好も相まって、まるで天使だ。天使が巨人という悪魔に堕とされる瞬間…考えただけで血湧き肉躍るな。」
こいつらは、何の話をしている?
私の…話…?
私は、こいつらの見せ物になるというの…?
目の前にいるのに、男達の話し声が遠くの方で聞こえる。自分の呼吸音の方が大きいせいでかき消されているのだ。
「怯えた顔もまた美しい…これは期待できそうだ。」
呼吸はどんどん乱れ、ちゃんと息が吸えているのかも分からなかった。
さっきまで冷静でいられた自分が嘘のように、酷く取り乱しパニックに陥っている。
「上手に逃げるんだぞ?すぐ巨人の餌になったら見応えがないからな…」
「はぁっはっ、はっ、」
嫌だ、怖い、怖いこわいこわい
死にたくない、いや、こわい、死にたくない
助けて、助けて
タスケテ——
—壁の外へ出たら、南東へ向かって走れ—
—しばらく走れば廃村が見えてくる。大きな風車が目印だ—
—リヴァイ達にもそこを目指すよう伝える。タイミングが良ければ途中で助け出してもらえるだろうし、それが叶わなくとも、廃村まで辿り着けば、必ずリヴァイ達が助ける—
ふと、混乱する頭に力強い声がこだました。
エルヴィンの、声だ。