第35章 届かぬ掌 ※
「何?!」
外門の方へ目を凝らすと、グンタの言う通り確かに人影が動いているのが確認できる。
「数人の貴族達を引き連れ中央憲兵がリフトで上がってきてるんです!」
「野郎ども…エマを見物するためにわざわざ登ってきやがったのか…」
「恐らくそうかと……」
エルドの気まずそうな肯定を聞き、リヴァイはその方角見据えたまま睨んだ。
巨人から逃げ走り回るエマを壁の上から見物し興じようというのか……
人道を無視した豚共の低俗な道楽に、吐き気がする。
「チッ!!」
今、見えるところに、手の届くところにエマを追い込んだヤツらがいる。
殺したい。
一人残らず壁上から蹴落として、全員エマに与えるはずだった恐怖を己が味わいながら、死ねばいい。
………しかし現実、そんなことは無理だと分かっている。
そんなことすれば自分からヤツらに存在をバラすようなもんだ。あの場の全員を殺したって同じ。敵はあそこに見えているだけではない。
そうなれば、エマを助ける作戦が水の泡となるのは明白だ。
衝動に飲まれそうなのをどうにか抑制し、リヴァイは短く息を吐く。そして外門とは逆方向へ足を踏み出した。
「エルド、グンタ、急ぐぞ!」
「「リヴァイ兵長!」」
トロスト区壁上の最東端で待機していたペトラとオルオが、リヴァイ達を緊張した面持ちで迎えた。
その隣でミケは険しい顔をリヴァイへ向けている。
「漸くエマが到着した。お前らも気付いてる通り、予定よりだいぶ押してる。しかも厄介なことに、壁上で中央憲兵と貴族の野郎がエマを監視してやがる……
日の出まであと数十分な上に、迂闊にエマに近づくことも難しい状況だ…」
「…となるとやはり、最終目標地点でエマを救い出す他ないと?」
リヴァイに厳しい目が向けられる。発言したのはミケだ。
「…そうだ。監視の目がある以上、隠れる場所のない平原で堂々とこっちの姿を晒すわけにはいかねぇ。」
「馬はいないが立体機動がある。憲兵の目を避けて迂回しても、俺達が目標地点まで辿りつくのにそう時間は要さないだろう。だが…」
リヴァイはその思い詰めたような顔をじっと見上げた。
ミケがその先何を言おうとしているかは、想像に難くない。