第35章 届かぬ掌 ※
「外門から目標地点までは凡そ2キロ。いくら足の遅い大人でも20分前後で着ける距離だ。」
「…なにも障害がなければの話だろう。」
「日が差してすぐに巨人が活発に動くわけじゃねぇ。もし刑が日の出と同時に執行されたとしても、全速力で目標地点を目指せば巨人はなんとか振り切れるはずだ。」
「…そうかもしれないが」
相変わらず歯切れの悪いミケに、リヴァイは少しの苛立ちを覚えた。
ミケの気持ちは分かる…自分だって分かっている。
さっきから限りなくゼロに近い可能性の話をしていることくらい。
だが、
「俺は信じる。」
あいつは必ず、俺達の元へ辿り着ける、絶対に。
「そうですよミケさん!エマは意外と体力もありますしきっと辿り着けるはずです!」
「私も、エマをこんなことで失いたくない。だから諦めません!」
「オルオ…ペトラ……」
二人に続いてエルドとグンタも力強く共鳴し、そんな部下たちの真っ直ぐな気持ちはリヴァイの胸を熱くさせた。
やはりお前らを選んで良かった——
抜かりなく任務を遂行できる能力だけでなく、彼らにはどんな状況下でも屈せず可能性を切り開いていける意志の強さがある。
そしてそれは、仲間を大切にする思いから生まれる、揺るぎない強さだ。
ミケ。お前だってそうだろう?
「俺達が信じてやらねぇで、誰があいつを支えてやるんだ。」
リヴァイの言葉にミケは細い目を見開き黙った。少しの静寂が訪れる。
そしてその静寂は、ミケが突然自嘲するように鼻を鳴らしたことで途切れた。
「エマは、ひとりきりで頑張っているというのにな…弱腰になって情けなかった。俺も、あいつが生きて辿り着けることに全ての望みをかける。」
「エマを見つけるにはお前の活躍が不可欠だ、ミケ。」
「エマの匂いを辿ることは容易い。任せろ」
薄黄色の瞳からはもう迷いは消え去っていて、リヴァイは漸く安心したように目を伏せる。
そして閉じた瞼をゆっくり開き、班員を見据えた。
「…いいか。俺達を唯一信じ頼ってくれているエマを信じろ。全お前ら力は、全てエマを救い出すためだけに使え。」
エマ、お前は絶対にこんなところで死なせない。
俺達が、何がなんでも救ってやる。
だから信じて、走れ——