第35章 届かぬ掌 ※
「エマが…聞き出した情報は信用してくれていい…俺がある程度の立場の人間から直接その情報の裏付けを取ってきたから、間違いはないはずだ。」
「そうだな…陰湿で残虐な基〇外どもがいかにも考えそうなことだ。」
「……あぁ」
ナイルに視線を向ければ、複雑そうに顔を歪めている。
……この壁の中では、壁外人類の存在などあってはならないと決められている。
だから民衆に気付かれず処分するには、深夜、秘密裏に壁の外へ追放してしまうのが一番手っ取り早いのだろう。
しかし恐らく理由はそれだけではない。
普通に処刑しては面白みに欠けるから、壁外追放を選んだ。
そして決行時間……夜は巨人の動きが鈍る。いきなり巨人に食い殺される心配は少ないが、わざと逃げる時間を与え、じわじわと死の淵に追いやるため深夜に決行するのだろう。
中央憲兵と王政はズブズブの関係。王政ももちろんエマのことは周知のはず。
そしてヤツらにとっては罪人の処刑ひとつとっても、エンターテインメントでしかない。暇を持て余す豚共の遊びの延長のようなものだ。
下衆な笑みを浮かべる豚共の顔がいとも容易く想像出来る。その穢れ汚れた顔を片っ端からぶん殴ってやりたい。
いや、ヤツらを目の前にしたらそれだけで収まるかどうか。
「リヴァイ、落ち着け…」
「あ?」
派手な衝撃音の後、狼狽えるナイルの声が部屋にこだました。
怒り心頭したリヴァイがテーブルを蹴り飛ばしていたのだ。
こうしているうちにも、エマはヤツらに何をされているか分からない。いや、大方予想はついてしまうが……想像したくない。
想像してしまえば冷静さを失い、本当にヤツらの元へ殴り込みかねない。
凄まじい憤激と憎悪、そして焦燥感がリヴァイを支配していく。
何もせずじっとしているのは、とうに限界だったのだ。
しかし、そんなリヴァイにナイルの一言が歯止めをかけた。
「今ここで取り乱しても、エマは戻ってこない。気持ちは分かるがとにかく冷静に行動しなければ…」
「……………悪い」
……確かにこの男の言う通り、取り乱しても状況は変わらない。
リヴァイは爆発してしまいそうな感情を何とか落ち着かせ、ナイルへ詫びると苦笑した顔を片手で覆った。