第35章 届かぬ掌 ※
気管を塞がれて息が吸えない。
「あんたはどうせ助からないんだ。だったらもう誰に何されようがいいでしょ?最後に、俺の望み叶えてよ…」
「—ッ!!」
無遠慮な唇がエマの唇に押し当たる。生温くぬめった物が無理やり割り入って、侵入した。
抵抗しようとするが、拘束された身体にがっちりした体躯がのしかかり、その上首を締められていては全く無理だ。
いや!やめて!!
悲痛な叫びは音になることは無く、エマの脳内でこだまするだけ。酸素を奪われた頭は瞬く間に眩み、次第に身体の力は入らなくなっていく。
抵抗が止んだのを確認するとアデルはエマに呼吸を与え、馬乗りになったまま性急にズボンを脱ぎ始めた。
「ん゛っ!!んん゛!!」
「はぁ、煩いなぁ……団長はいいでしょ?エマさんの恋人でもないんだし。」
叫ぶエルヴィンを一瞥し再びエマを見下ろすと、アデルは愉しそうに呟いた。
「あれが兵長だったら完璧なのになぁ…」
“ね?”と同意を求めるのは、屈託のない笑み。
エマはその悍ましい男の表情に最早涙も声も出なくて、ただ震え上がるだけだった。
「——!やっ!やめ!やめて!」
「聞きたいのはそんな声じゃない。もっと可愛く啼いてよ。」
意図も簡単に脱がされ、下が露わになる。いくら叫んでも身を捩っても行為は無情に進んでいってしまう。
そして全く慣らされもしないまま、乾いた場所に男の肉塊があてがわれた。
「最期に、楽しい思い出作ろ?エマさん。」
「……ゃ、め…」
その時、向かいから絶え間なく聞こえてくる苦悶の叫びが、錯乱していたエマの耳に漸く届き、ハッとした。
…そうだ……こんなことで、挫けては…
団長と一緒に、チャンスを待っていたのだ。
作戦を成功させる為に、私がすべき事をするのは今だ。
肉塊の侵入を許す直前でエマは何とか自身を奮い立たせ、大声を上げた。
「待って!!」
「何?拒否権ならないけど」
「違う…拒否は………しない。…最後に教えて欲しいことがある…それと話したいことも………あなたの言うとおり、私はどうせ助からない。」
吃驚して目を見開くアデルを見上げ、エマは意を決した。
「これが終わったら、私の話を聞いてほしい」