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【進撃の巨人】時をかける—【リヴァイ】

第35章 届かぬ掌 ※




数分後前までとは一変、静けさに包まれた牢獄の中で、床に倒れ込んだまま壊れた人形のようにゼェゼェと呼吸を繰り返すエマ。

—ガシャン!

鉄がぶつかる音が響いて我を取り戻す。音は鉄格子の向こうからだ。


………エル、ヴィン…だん…ちょ…

身体はほとんど力が入らないが、なんとか眼球だけを動かす。

エルヴィンはフーフーと息を荒くしていた。大きく瞳孔の開いた目は涙こそ流れていないが泣いているも同然に見え、エマの胸は苦しくなった。

“大丈夫です”

そう伝えようと必死に頬の筋肉を動かした。言葉を紡げない代わりになんとか笑ってみせたが、エルヴィンの顔は一段と歪んだ。






2日目の拷問が終わった。

初日よりも沈められる回数、時間が増え、地獄は増した。
特に、最後にヴェローニカの手で押さえられた時は完全に溺れたと思った。一瞬、意識が飛んだのだ。

しかしなんとか…どうにか耐えることができた。
髪はびしょ濡れで衣服も所々濡れている。苦しいし寒いけれど、絶対にここで屈するわけにはいかないのだ。

それに、運が良ければ今日でこの拷問からも解放されるかもしれない。
願わくばそうなって欲しいと思いながら、コツコツとこちらへ向かってくる足音に耳を済ませた。


「エマさん」

ゆっくり上を見れば、馴染みのある顔。エマの緊張が高まる。
覗き込むのは、エマが再会を待ち望んでいた——


「……アデ、ル…」

「とても辛そうだ……髪も服も濡れて」

哀しそうに呟きながらアデルはエマの体を起こし、猿轡を解き、髪を拭いていく。
傍らには皿の乗ったトレーが。食事の時間のようだ。


「……ありがとう」

「!ハハ、エマさんからお礼言われるなんて初めてだなぁ、嬉しい。」

ニッコリ笑うアデルは懐かしい無垢な笑顔。
だが今更彼に心を開くつもりなどない。彼はもう敵だ。

そしてこの敵を上手く利用しなければならない。
できるかどうかは、これからの自分次第……


「ご飯、食べられます?まだ苦しいですか?」

「…大丈夫」

そう答えれば、ニコニコ顔でちぎったパンを差し出された。
拷問直後で食欲なんて皆無だが、拒否してすぐに出て行かれては困る。

エマは味のしない個体を、無心で胃に流し込んだ。


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