第35章 届かぬ掌 ※
一エマ。ひとつ考えがある一
絶望の底に叩き落とされても、
一よく聞いてくれー
ほんのひとかけらでも光を見出せそうなら、
ーこれは君の命を救うための、最終作戦だ一
エマがその身を犠牲にしてまで守ってくれようとするこの命……全身全霊をかけて、
一信じてほしい。必ず、私たちが一
エマの手を、また掴んでみせる。
一一一一一一一一一一一一一
「チッ!」
盛大な舌打ちの後、ため息をついて椅子に座り込んだ。
こんな時でも同じように朝はやってきて、時間は身勝手に進んでいく。
目の前の書類の山は最早無意味な紙屑に見えていた。
いや、こんなもの本当に無意味かもしれない。いっその事全部破り捨ててやるか。
エルヴィンが連行されて4日目、そしてエマがいなくなって6日目の朝。
リヴァイの心は荒んでいた。ずっと何かをしていなければ発狂してしまいそうで、日中は訓練と執務に明け暮れ、暇があればどこかしこと掃除をして何とか気を保っている。
さしずめ夜は最悪だった。ほとんど眠れぬ日が続き、目の隈が日に日に濃く刻まれる。
確かエマと出会う前も酷い不眠だったが、今はそれ以上だ。エマを突然失ったショックが、じわじわとリヴァイを蝕んでいた。
一私がいなくなってから3日間、なんの音沙汰もなければ、4日目にナイルの所へ行ってくれ一
今日で4日目。タイムリミットだ。
エルヴィンから連絡はない。そろそろ憲兵団本部へ向かう準備と、“あの”作戦の準備を本格的にしなくてはならない。
このまま音沙汰がなければ今夜、ナイルを訪ねる。
あっちがどういう状況か分からないが、こっちは順調にエルヴィンの描いたシナリオ通り進んでしまっている。
……最悪だ。
今からでも吉報が届かないかと、都合のいいことを望んでしまう。
陰鬱な空気が充満する部屋に、コンコンと軽快なノック音が響いた。
「誰だ」
「ペトラです。憲兵団のナイル師団長が兵長にお会いしたいと。」
ガタッ!!
ペトラの快活な声が“ナイル”と発した瞬間、リヴァイは椅子を倒しながら立ち上がった。
何故、ナイルがここへ…?
「通してくれ」
開いたドアの向こうには薄ら髭の細身の男。紛れもなく憲兵団を統括している、ナイル・ドークだった。