第35章 届かぬ掌 ※
「大人しくしていればいいものを。」
「い゛っ!!」
物凄い力で手首を掴まれた。骨がミシミシいってあまりの痛みに声が出てしまう。
「馬鹿な真似するから、自分で自分の首締めることになる。これからはトイレも俺の前でしてもらいますから。」
「そ…な……」
「当たり前ですよ。上に報告したらペナルティも課されるでしょうね。でも仕方ないです、逃げようとしたあなたが悪い。」
エマは震え上がった。話の内容はもちろんのこと、この男の瞳の奥に宿る狂気のようなものが、怖い。
そしてつくづく詰めの甘い自分に腹が立つ。無力な自分にも。
俯いていると今度は、“さぁ!”とやけに明るい声が降った。
「戻ってご飯の続き、食べましょう?」
「……」
手首を強く引かれた。降り注ぐ日差しが遠のいて、僅かな望みは簡単に打ち砕かれてしまった。
一一一一一一一一一一一一一一一
「………」
脱獄失敗から数時間後、石の床をぼうっと見たまま、エマはベッドに横たえていた。
あの後、牢屋に戻るやいなや手枷を嵌められ食事中も外すことは許されなくなる。食欲は相変わらずなかったが、アデルの手によって無理やり半分ほど流し込まれた。
更にその後再びトイレへ連れていかれ、アデルの目の前で排泄させられる。
それは想像以上に屈辱的で、エマは泣きながら排尿した。
右半身が痛く、そういえば長い時間同じ体勢だったと気がつく。けれど体を動かす気力はなく、そのままベッドに身を預けた。
私は、どうなってしまうのだろう…
このまま黙秘を続けたところで、果たして状況は良くなるのだろうか。いや、スマホの存在がバレた時点で疑いを晴らすことは絶望的かもしれない…
リヴァイさんは、今どうしているのだろう…急にいなくなってしまって、きっと物凄く心配をかけているに違いない。
リヴァイさんだけじゃない、団長もハンジさんもモブリットさんもミケさんも、リヴァイ班の皆だって…
皆に会いたい。
リヴァイさんに、会いたい。
気持ちを強く保とうとしても、一人では簡単に心が折れてしまいそうだ。
辛くて苦しくて堪らない。行き場のない感情は涙となって外へ出た。
不意に靴音が聞こえ、エマは反射的に身を強ばらせた。
アデルの言った“ペナルティ”という言葉が頭を過ぎる。