第6章 秘書のお仕事
自分の執務室へと戻ったエルヴィンはドアを後ろ手で締めると、目を閉じため息を漏らした。
昨日兵舎の門で会ってから、彼女への歯止めが効かなくなってきている。
実は今朝も、もしかしたらまた掃除をしているかもしれないと思い、故意に談話室を覗いていたのだ。
初めて見た時から可愛らしい容姿で純粋な彼女に好意を持っていたのは間違いない。
しかしいずれは彼女は自分の世界へ帰らなければ行けない、ここへずっと居てはいけない人間なのだから、自分の欲求のままに動くのは良くないことぐらいは分かっていた。
はじめは、ちょっとちょっかいを出すだけのつもりだったのだ。
「俺も意思が弱いな。」
三日前からリヴァイの秘書としての仕事をスタートさせて、その仕事ぶりはリヴァイも感心するほどのようだった。
そして兵舎の門でのリヴァイとエマのやり取り。
なんてことない二人の短いやり取りを見ただけだと言うのに、自分とエマの間にはないその距離の近さを、異常に羨ましく感じてしまった。
そんなことで自分を自制を出来なくなるなんて、まったくいい歳をした男が聞いて呆れる。
しかし、一度ブレーキを緩めてしまったエルヴィンは、この先も自分の欲を制することはきっと難しいだろうと、どこか他人事のように考えていたのだった。