第6章 秘書のお仕事
「一緒に仕事してるリヴァイが羨ましいとさえ思ってしまう。」
「団長、何言って…」
「そのままの意味だよ。君にもっと近づきたいと思ってる。」
エルヴィンはエマに近づくと、目線の先にしっかりと彼女を捉え、その頬をゆっくりと撫でた。
エマは彼の瞳に囚われたかのようにピクリとも動けなくなった。
「エルヴィン団長…」
「…すまない。
君にそんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。」
見つめあったまま数秒の沈黙の後、エマはなんとか絞り出す様な声で名前を呼ぶと、エルヴィンは一瞬我に返ったような顔をして彼女から離れ、眉を下げて切なそうに笑った。
「あ、あの」
「困らせて悪かった。今日は冷えるようだから体調には気をつけなさい。」
咄嗟に何かと言おうとエマは口を開くが、エルヴィンの二度目の謝罪の言葉がそれを遮った。
「はい…」
返事をすると、エルヴィンは何事もなかったように柔らかな笑顔を向けて談話室を出ていった。
談話室に取り残されたエマは、金縛りが解けたように身体の力が抜け、大きな手のひらが撫でた頬にそっと手を添える。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
頬にエルヴィンの手の感触が残って離れない。
エルヴィンの言葉が頭の中で何度もリピートされた。
あんなことをされたら、いくら経験が乏しい自分でも好意を持たれていることぐらいは分かる。
一体どうすれば…
エマは今まで一度もまともに恋らしいこい恋などしたこともなければ、ましてや誰かに言い寄られたことなんて全く経験がない。
だから、突然のエルヴィンの告白にどうしたらいいのか分からない。
そもそもあれは、本当に本気だったのだろうか…
“最初からからかってなどいないよ”
エルヴィンの言葉を思い出して、また一人顔を赤らめる。
バクバクいう心臓も収まらないし、この感情のやり場も分からないまま、エマはテーブルに置かれた黄色いビオラを見つめたまま立ち尽くしてしまった。