第34章 失踪
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ピカピカに磨き上げられた装置をさらに磨く。細部に至るまで、丁寧に。
掃除や物の手入れは得意だし、好む。他人には潔癖だのと言われるが、塵ひとつない部屋は気持ちがいいし、身に付けるものだって清潔な方が気分がいい。
そして掃除をしている間は唯一、余計なことを考えなくていい。ただひたすら無心に、目の前の汚れのことだけを考えていたらいいのだから。
だが、今回はいくらそうしたって、一瞬の気休めにさえならない。
「………」
“リヴァイさん!”
無邪気に名を呼ぶ声が、何度も頭の中でこだまする。
声だけじゃない。春の日差しのような柔らかな笑顔も、毎晩ベッドの上で抱きしめていた小さな体も。しなやかな肌、自分より少し高い体温だって……
リヴァイは顔を上げた。ずっと同じ体勢だったせいか首と肩が少し凝ってしまっている。
辺りに視線を巡らせ、顔を顰める。ため息を吐いた。
元々、自分一人のための部屋だったというのに、無駄に広く感じる。そして言いようのない寂しさと虚無感に包まれる。
エマがここで寝るようになった僅かひと月ほどで、ここはもう二人の部屋になっていたことに気が付く。
歯ブラシや着替え、栞が挟まれた本。どれもついこの間までエマがいた事ことを如実に物語っていて、それを見る度、彼女がここにいない事実を突きつけられる。胸が張り裂けそうだった。
焦り、憤り、悔恨。
エマの無事をただ祈ることしか出来ない、無力な自分に腹が立つ。……だが今はこうするしかない。
じっと耐え、時を待つしか。
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今から2日前の夜。燭台に灯りの灯る団長室にリヴァイは呼ばれた。
呼ばれたのは自分だけで、部屋の主の雰囲気から用件はエマのことだと分かった。
「私が王都へ行ったことは、ハンジ達以外の兵士には黙っていてほしい。」
「あぁ…そのつもりだ。混乱はできる限り避けたいし、エマもこんな形で知らされることを望んじゃいないだろう…」
リヴァイはエルヴィンと向き合い、見上げる。
碧い眼は少しの濁りもなく澄んでいて、だが腹の底では何を考えているのか分からない、いつも通りの瞳だ。