第34章 失踪
「………何か、策はあるのか。」
現時点で最もエマに近付ける可能性があるのはエルヴィンだけ。
何も出来ないのが本当に悔しいが、この男に望みをかける他ない。
「いくつかのパターンは想定してある。…だが如何せん初めてのことだし、中央憲兵は謎多き組織……想定外も十分にありうるだろう。そうなった時は、その場でまた考えなくてはならない。
………リヴァイ、ひとついいか?」
「なんだ」
交わった視線は真剣で、何か覚悟のようなものさえ伺えた。
「私がここを立ったらすぐ、ある準備をしてほしい」
「準備?」
「そうだ。人員は最小限、人選はすべてお前に任せる。……これから話すことは私の想定する最悪の場合の話だ。もしこの読みが現実となった場合、エマを助けるためにお前と、お前が選んだ班員に全てを託すことになる。」
「……また得意の博打か?」
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あの時、“博打か?”と聞けばエルヴィンは少しだけ表情を緩め、頷いた。
エルヴィンの博打には今までも散々振り回されているから慣れている。だが、まさか今回もそれを使ってくるとは。
しかし話を思い出す度に背筋がゾクリと粟立つ。エルヴィンが想定した最悪の展開は本当に最悪且つ、決して非現実的じゃないように思えたのだ。
そんな事になって欲しくない。だが現実から目を逸らし悲観的になったってエマを救うことはできない。
ーしかしこの賭けに勝てば、エマを救うことができるー
リヴァイは奥歯を噛みしめ、拳を握りしめた。
エルヴィンに言われた通り人員は編成し終わった。
判断力、実行力と協調性を持ち合わせており、もっとも信頼できる仲間。その中でこの一件を知らない者には、決して他言しないことを約束に全てを話してある。
「………」
リヴァイは壁にかかっているカレンダーを見た。
ー私がいなくなって3日だ。それまでになんの音沙汰もなければ、4日目に極秘でナイルの所へ行ってくれ。直接お前に伝えられなくても、どうにかして何かしらの情報をナイルに伝えておくようにするー
そうなっては欲しくないと思いつつも、今日でエルヴィンがいなくなって丸2日が経ってしまった。
ナイルからの手紙を受け取った翌日、本人の予想通りエルヴィンは中央へ連行されたのだ。
タイムリミットは着々と迫っている。