第34章 失踪
テーブルに置かれた紙切れを覗き込んだ。
ナイル直筆の手紙は走り書きのような文字で、決して悠長にこれを書いている状況ではないことが伺える。
「こんなことって…」
「…だがここに書いてあることが事実で間違いはないようだ…」
頭を抱えるハンジに、ミケは険しい顔で言った。
リヴァイは握りしめた拳をテーブルに叩きつけてしまいそうなのを、グッと堪えていた。
やれるもんなら……今すぐにでも中央憲兵に乗り込みエマを連れ戻したい。
しかし相手は王政、つまり国家に従える部隊。真正面から向かってはリスクが大きすぎる。何か、策を練らなければ…
「…エルヴィン、心当たりのある、エマを連れて行った人物ってのは誰だ?憲兵の奴か?」
「……先月ここを自主退団した、アデル・モーラーだ。」
「!!」
エルヴィンの口から出た名前に、リヴァイの眼は鋭利な刃のように変わる。
「兵団外の人間且つ、エマと関わりがあった人物…ってことか?」
「それだけじゃない。入団時の資料によると彼は憲兵団を強く志望していたが成績が足りず、ここ(調査兵団)へ入団した。だがエマへの強姦未遂事件を機に自主退団。
……こころざしもなく投げ槍になっているところに、もし憲兵から協力を頼まれていたら…?成功すれば特例で憲兵団に入団できる、などと言われて。」
「そんなうまい話が」
「中央憲兵は手段を選ばない。王政の秩序を守るためなら何だってするし、使えるものは使うだろう。」
ミケを遮り、エルヴィンは眼光を鋭くさせた。
「なら、あのクソ野郎はエマを拐い、今頃憲兵団に入ってほくそ笑んでるってわけか?」
「……私の勘だがな」
「てめぇの勘はよく当たる。……悪いことほどな。」
盛大に舌を打った。少し気を抜けば、本当に目の前のテーブルを叩き割ってしまいそうだ。
「ねぇエルヴィン…この話が本当だとしたら、貴方も」
「恐らく呼ばれるだろう。近々」
エルヴィンの返答にハンジは俯き、両手でガシガシと髪を掻き毟った。
もしエマの秘密が本当にバレてしまったら、兵団を統括する団長にも追及がいく。
異世界…つまり壁外からきた人間の素性を隠しながら、兵団に置いていたことを問いただされるわけだ。