第34章 失踪
「………」
リヴァイは、白い紙切れを見つめる男に注目した。
早馬で届いた連絡とあらば、何か重要なものに違いないはず。表情の変化を注意深く見ていると、僅かにその瞳孔が開いた。
隣のハンジが痺れを切らして問う。
「ねぇエルヴィン、何が書いてあったの?」
「…ナイルからだ」
「え?ナイル?」
ナイルと言えば憲兵団師団長。訓練兵時代のエルヴィンの同期であるが、仕事上ではあまり目立ったやり取りはないはず。それが、何の急ぎの連絡だというのだ。
エルヴィンは応接テーブルを囲う一同に向き直った。
その表情は一見いつも通り冷静沈着に見えるが、纏う空気が緊張したものに変わっている。
「…エマは今、第一中央憲兵団によって囚われている。」
「?!」
その瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
エマが…中央憲兵に……?
予想もしない展開に思考が停止する。
しかしそれでもなんとか必死に頭を回し、考えた。
中央憲兵は言わば王政の直属部隊で、何をしているのかはっきり分からない上、他兵団との関わりもほぼない。そんな奴らが、何故?
………
……
…いや、待て。
真偽は定かではないが、あいつらは裏では王政に仇なす者の暗殺や王政を揺るがすような情報の隠蔽工作をしていると聞いたことが、
「まさか……バレたのか?!」
最も考えたくない可能性が浮かんでしまった。
エルヴィンを見やれば、かち合った碧眼がイエスと答える。
「ナイルからの情報によるとこうだ。……憲兵団内でエマに不信感を持つ者が現れた。身元を調べるも一切上がってこない上、調査兵団への入団経緯も不明。この疑惑の真偽を問うために、本人を中央憲兵に連行したと…」
「!!」
「そんな!何で?!」
立ち上がったハンジは噛みつくようにエルヴィンに詰め寄った。
「…何故バレたのかは書かれていない。ナイルは憲兵団の長だが、中央憲兵団は普通の憲兵とは異なる動きをしている上機密部隊でもあるから、本来なら情報は回ってこないはずなんだが。
ナイルがどういった経緯で情報を入手したか分からないが、恐らく先回りして我々に知らせてくれたのだろう。この密告もバレたらまずい事になる。」