第34章 失踪
「あなたは一体どこからいらっしゃったのですか?」
「………」
「せっかく喋れるようにしてあげたんだから、答えてくれなきゃ。自分のことなんだし、わかるでしょ?」
「………っ」
口が裂けても言えない。言ったらダメだ。
言ったらどうなるか、分かっている。
一ほんとこれ、謎だけどさ。王政の方針で、壁の外の話をするのも、興味を持つことすらタブーとされている一
一過去に気球を作って壁の外に行こうとした民間人が、憲兵に殺されたって事件もある一
一だからエマ、私たち以外には決して自分の身元をバラしちゃいけないよ一
ハンジさんが忠告してくれた通り、誰にも正体を明かしてはいけない。もしもバレたら私は確実に一…
「…トーリア出身で間違いない。両親は死んだ。親族は一人もあったことがないから分からない。」
「………本当に?」
「…本当」
直視し続ける瞳は真偽を確かめているよう。逃げたくてたまらないが、ここで目を逸らしてはダメだ。
エマは意思を強く持ちじっとアデルを見据えたが、しかし彼の方から目線は逸れた。
「そっか。まぁいいや。それより、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど…」
しゃがんだままアデルはポケットをガサゴソと漁り始め、そこから取り出されたものを見てエマは絶句した。
男の手の中にあったもの………
それは、エマのスマートフォンだったのだ。
「なんでそれを?!」
エマは声を荒らげ男に食いついた。
だって、これは自室の引き出しにずっとしまってあった。
普段持ち歩いてなどいないし、在処は自分にしか分からなかったはずだ……
「調査兵団の同期の協力を仰げて助かりました。でも無防備ですね。夜中、どこへ行ってたか知りませんけど、部屋の窓の鍵、ちゃんとかけておかなきゃ。」
「…あなたが、盗んだの…?」
「クク、人聞きが悪いなぁ。憲兵の上層部から依頼された任務を遂行しただけですよ。」
アデルの話に顔を顰めた。
何がどうなって、アデルにそんな任務が与えられたのか。
しかしその答えはあっさりと彼の口から語られた。
「あなたが気付いていなかっただけで、前からあなたを怪しむ人はいたんですよ。壁外の人間…その証拠を掴む役目を、元調査兵団の俺が仰せつかったってわけです。」