第34章 失踪
深く沈んでいた意識が浮かび上がると同時に痛覚が襲った。
「………っ」
鈍い痛みを感じたのは頭だ。
重たい瞼を無理矢理こじ開けぼやけた視界に映ったのは、薄暗い部屋と等間隔に並ぶ黒い棒。
背後でジャラ、と聞き慣れない金属音がした。
「?!!」
手が動かせない。
咄嗟に後ろへ首を捻れば、両手は頑丈そうな鉄の輪で拘束されていた。さらにそこから繋がった鎖が壁の方へ伸びている。
一気に覚醒したエマはまた前を見た。
今度はその目にはっきりと映る。等間隔の黒い棒は鉄格子だった。
なに……これ……
「!!ん?!んんっ!」
エマは声を上げたかった。だが噛まされた布がそれを許さない。
「んー!んん!んっ!!」
やだ、どうして?!嘘、夢でしょ、こんなの…?!!
ガシャンガシャンと金属のぶつかる音が響く。
どうにか拘束を解こうと必死に手首を引っ張ったり捻ったりするが、鉄輪が擦れて痛いだけだった。
「ふっ……」
夢じゃ、ない……
カタカタと勝手に身体が震え出す。理解不可能な状況に混乱と恐怖で頭がパニックになりそうだ。
ここはどこ?どうして拘束されてるの?!
誰が?なんの為に?!
湧き上がる疑問も恐怖となり次々エマに押し寄せる。
しかしなんとか自身を保ち、冷静に記憶を辿ろうとした。
たしか兵舎裏でリリーと話しを…
そしたらアデルが現れて、謝りたいと…
“ごめんなさい”
すぐに頭を上げてと言ったのに上げてくれなくて、しばらく経って漸く上げてくれて…
「!!」
そうだ、思い出した…
彼が顔を上げた直後のことだ。
首元に強い衝撃が走り、突如視界が白く飛んだ。
そして意識を失うまでの一瞬の間に見えた、冷たい目をしたアデルの顔も……
「エマさん」
「!!」
まだ記憶に新しいその呼び声。
顔を上げ、エマは言葉を失った。
「漸く目覚めたんですね。さっきは手荒な真似してすみません。どこか痛むところはありますか?」
話かけるその声はとても柔らかいが、瞳の奥は冷えている。
鉄格子の向こうに立っていたのは紛れもなく、さっきまで会話をしていたアデルだった。