第6章 秘書のお仕事
翌朝一
まだ陽は山から少ししか顔を出していない頃、薄暗い談話室に数箇所ロウソクを灯して掃除をするエマの姿があった。
リヴァイの仕事を手伝うようになってからも早朝の掃除は毎日欠かさずにやっていた。
この時間は彼女の中で、ここでの生活サイクルの一部になっているようだった。
「毎日ご苦労だな。」
「おはようございます、エルヴィン団長。」
「おはよう、エマ。」
エマはニコッと笑って朝の挨拶をすると、エルヴィンもそれにつられて頬を緩める。
「今日は花は生けないのか?」
「あ、それならここに。」
エマはそう言うと、流しから黄色いビオラが数本生けてある小瓶を持ってきた。
「今日は黄色か。鮮やかだな。」
「綺麗な色ですよね。黄色いビオラには“ささやかな幸せ”という花言葉があるんですよ。」
「花言葉?」
「それぞれの花には意味を持たせた言葉があるんです。ここで寛ぐ人達にこの花を見て、花言葉通り小さな幸せを感じて貰えたら嬉しいなぁなんて思って。」
「相変わらず君は健気で優しいんだね。花言葉か…」
エルヴィンは顎に手を当てて少し考えるような仕草をした後、透き通った碧い瞳をゆっくりエマに向けた。
「私にとっては君と過ごすこの早朝の時間がささやかな幸せ…だな。」
エマはその言葉に心臓が大きく波打つのを感じた。
「わ…私も団長との時間は楽しいと思ってます。」
エマは動揺をなるべく悟られないように平然を装おうとするが、続けて発せられるエルヴィンの台詞に動揺が隠せない。
「できることならもっと君と同じ時間を過ごしてみたい。」
「ま、またまた団長は私をからかってますね…?」
エマはおどけてみせるが、エルヴィンはまっすぐエマを見つめたままその表情を緩めなかった。
「からかってなんかいないよ、最初から。」
「え…?」
そして彼女が予想だにしなかった言葉が降ってきて、エマの目は大きく揺らいだ。