第34章 失踪
「エマさん」
「…!!」
遠くから聞こえたのは、どこかで聞き覚えのあるハスキーボイス。
横を向いたエマは吃驚した。
「リリー、ごめんね。ちょっとだけ行ってくる。」
「うん」
リリーへ一声かけ花壇を離れた。
姿を現したのはひと月前に退団したアデルだった。
私服で、バツが悪そうな顔をしながらこめかみをポリポリ掻いている。
「エマさんにどうしてもちゃんと謝りたくて…あの日のことを。」
「…やだ、もう気にしてないから大丈夫だよ。」
「いいや。あのまま謝罪もせず退団したことがずっと心残りで、なんていうかこうでもしないと切り替えられなくて…だから、エマさんが気にしてなくても、謝らせてください。」
エマはくせっ毛の旋毛を見た。真摯に頭を下げるアデルへすぐに顔を上げてと言うがなかなか上がらない。
「ごめんなさい。」
一一一一一一一一一一一一一一
午後の全体演習にひと段落がつき、リヴァイ班は個別に作戦会議のため兵舎へと戻ってくるところだった。
「ん?おい…」
視線の先に何かを見つけたエルドが横のグンタへ顎で示す。
彼らの後ろではオルオとペトラが、その更に後ろを歩く上官の気配を気にしながら小声で夫婦漫才を繰り広げている。
エルドの視線の先にいたのは花壇に立ちすくむ幼い少女だ。
エルド達の方向とは逆を向いているから顔は分からないが、その背中は小さくとても頼りない。
「こんな所でどうした?」
「……!」
グンタが話しかけると肩を跳ねて振り返る少女、怯えた顔をして人形を抱きしめる。
「ハハ!グンタ、お前の顔が怖いってよ!…お嬢ちゃん、迷子か?それともここに何か用か?」
エルドが子供に目線を合わせて優しく肩に手を置けば、リリーの強ばりは解けた。
「あら、どうしたの?」
「ハッ、なんだってこんな所にガキがいやがるんだよ。」
そのタイミングでオルオとペトラも来た。少し後にリヴァイも。
大勢の大人に囲まれてまた怯んでしまったリリーだが、エルドに優しく促されると漸くちゃんと話し出す。
「…おねぇちゃんが―――」