第6章 秘書のお仕事
団長は時々、こういうことをしてくるからビックリする。
この間兵服を褒めてくれた時だって、こっちが勘違いしてしまうような言い回しをしてたっけ。
容姿端麗なエルヴィン団長がそんな行動をすれば、本気にしてしまう女性も少なからずいるだろうに。
この人は天然でやっているのか?
エルヴィンが一体何を考えているのか気になったが、今のエマにはその答えは出せない気がしたので、これ以上考えるのはやめておくことにした。
「お二人ともお忙しいのに引き止めてすみませんでした!
寒いので風邪引かないように気を付けてくださいね。」
エルヴィンの行動のせいでなんとなく居ずらくなってしまったエマは、二人を気遣う言葉をかけてその場を立ち去った。
「フッ、やっぱり彼女は初心で可愛いな。」
兵舎に戻っていくエマの姿を見つめながら、独り言のように呟くエルヴィン。
「惚気なら俺のいないところで言ってもらいたいもんだな。」
「すまないな、つい本音が出てしまった。」
「どうだか。お前はいつもどこまでが本音なのか分からねぇからな。」
「冗談だと思ってるのか?」
「…本気なのか?」
エルヴィンのことは若いエマを相手にからかっているだけだろうと踏んでいたため、彼の思いもよらぬ発言にリヴァイは思わず聞き返してしまった。
「…さぁ。俺もよく分からない。ただ…あぁやって頬を染める彼女を見ると、もっと欲が出そうになる。何故だろうな。」
エルヴィンはそう言いながら自嘲するように笑った。
そんな様子を彼らしくもないと横目で捉えつつ、リヴァイは心の片隅を小さな針でチクリと刺されるような不快感を、僅かではあるが、でも確かに感じていたのであった。