第33章 決意の裏側
その日の夜。
エマは部屋で一人、考えていた。
塞がれた井戸を目にした時、大事な繋がりを一気に奪われたような気持ちになって、一瞬、この世界に自分だけ取り残されてしまったように思えた。
リヴァイの言う通りだったのだ。
まだ心のどこかでは、故郷との繋がりを断ち切りたくないと甘んじていた。やはり覚悟なんてちゃんと出来ていなかったのだ。
しかしリヴァイはずっとそれに気付いていた。そして全て分かった上で自分を責めることもせず、寄り添ってくれた。
その優しさが嬉しくて、安心して、すごく救われた。
そして過去の自分を忘れるのは怖いけれど、リヴァイとは離れたくないという身勝手な我儘も、何も言わずに受け入れてくれた。
開け放した窓から吹き込んだ夜風が頬を撫でる。
初夏のような日中の暑さを忘れさせてくれるような、ひやりと心地良い風に目を閉じた。
一無理しないで。私たちもこれまで通りエマの力になることはするし、話だっていつでも聞くから一
一私達も君を頼るし、君も頼ってほしい。決して一人で抱え込まないでくれ一
団長室でのハンジとエルヴィンの言葉が蘇る。
そう、リヴァイさんだけじゃない。ここへ来てから数ヶ月、もう私はひとりじゃない。
心を許せる人も、尊敬する人も、気さくに話せる人も、冗談を言って笑える人だっている。
そもそも何故、故郷に別れを告げてまでここに留まりたいと思ったのか一
ガチャ
「…リヴァイさん!」
部屋のドアが開き姿が見えた瞬間、エマは無我夢中で抱きついた。
「悪い、遅くなった」
嗅ぎなれた石鹸の匂いと少しの汗の匂いは、エマをひどく安心させる。
「お疲れ様です」
「一人でまた考え込んでたのか?」
静かな声には優しさが滲んでいる。
エマは胸に頭を埋めたまま首を横に振った。鼻が布に擦れて、より強く香る。
「色々心配かけてごめんなさい。私、もう大丈夫ですから!」
胸から顔を剥がされ、気遣わしげな三白眼が顔を覗き込んだ。
「本当か?また強がったり」
「ごめんなさい、ちょっと嘘つきました…」
心配そうなのが怪訝な顔に変わる。
エマは眉を下げて困ったように笑った。