第33章 決意の裏側
翌日の夕方、井戸を埋めた人物が判明した。
聞けば、誰かが落ちてしまっては危ないしもう使用することもないからと、この連休中に暇な数人がかかりで埋めたらしい。
「危険だからっていうのは分からなくもないけど、やる前に一声かけて欲しかったよね…」
「仕方ない。これくらいの雑務でいちいち許可をとることにはなっていないしな…やった本人たちも善意からというなら咎めることもできない。」
「エマ…その……大丈夫…?」
団長室のソファへハンジと横並びに座るエマ。向かいにはエルヴィンだ。
隣のハンジが心配そうにエマの顔を覗き込む。
「大丈夫です。わざわざ調べてくださってありがとうございます。」
エマはハンジに向き直りペコリと頭を下げた。
悪戯ではなく善意でというのが分かっただけでも気持ちは大分落ち着いた。
正直不安だった。自分の秘密がバレて誰かが故意的に塞いだのではないかと。ハンジたちのことはもちろん信用しているから誰かがバラしたとは考えなかったが、どこからか情報が漏れてしまったのではないかと。
だから理由を聞いてホッとした。
「エマ、なんかごめんね。今更こんなこと聞くのもアレなんだけど…本当に良かったの?ここに留まるって決めて…」
「自分で決めたことなので。それは揺らぎません。」
ハンジの問いかけにエマはコクリと頷き、ハンジを真っ直ぐ見据えた。
ブレない視線と強い声は、彼女の揺るがない決意を示している。
故郷の記憶が消えてしまう云々はリヴァイ以外には話してない。余計な心配をかけたくなかったし、何よりまだ立証された訳ではないから。
ただ、エマの中ではあの老婆の話は確信的だと思えてしょうがない。根拠はないが、実際一度記憶の一部が消えかけたのだ。その事実はやはり大きかった。
それでもやはり他の人には言えない。
今後もし老婆の話通り忘れていったとしても、そのことは周りには告げず自分の中で全て消化するとエマは決めていた。
私が、自分の意志で、この世界で生きると決めたんだ。
「なので、これからも陰ながら皆さんのこと支えさせてください!」
エマはハンジとエルヴィンに向かい明るく微笑んだ。