第33章 決意の裏側
リヴァイさんに嘘をついてしまった。
リヴァイさんを傷付けてしまった。
大切な記憶を失うのが怖い。
でもリヴァイさんとずっと一緒にいたい。
欲張りな自分に嫌気がさしそうだ。
でもどうしていいのか分からない。
ただショックと、溢れる負の感情を止めることはできなくて、拳を握りしめても歯を食いしばっても、涙は止まらない。
「…ごめ、なさい…」
「謝るな」
「……」
「……」
やっとの思いで発したのはたったの五文字。
申し訳ない気持ちからリヴァイの顔は見ることができず、けれど手は離さないでくれていた。
長い沈黙を破ったのはリヴァイだった。
「……お前がこれまで過ごしてきた人生がどんなものだったかは俺には一生分からねぇ。だが、その記憶を失う恐怖を想像することくらいはできる。」
エマの世界で会った老婆の話通りなら、これからエマの故郷の記憶は日を追う事に消えていく。
思い出せないと気づく度ショックを受け傷付き、それは辛くてたまらないだろう…けれど、それがエマと自分が選択した道なのだ。
だから、
「お前の苦しみはできる限り俺も一緒に背負う。だから平気なフリをするな…辛ければ辛いといくらでも言えばいいし、泣けばいい。ありのままのお前を俺は全部受け止める。ずっとそのつもりでいる。」
「…リヴァイさん……」
ボロボロと溢れる涙を指で掬い拭う。
「ごめんなさい…私…帰る手段がなくなってやっと認められた……怖い、怖いです。やっぱり全て忘れるのは怖い……でも、リヴァイさんを失うのはもっといや…矛盾してるけど……でもこれが今の本当の気持ちなの……」
震える肩を抱きそっと身体を包み込めば、エマは胸の中で泣きじゃくりだした。
「大切なものを失うのは誰だって辛い。泣きたいだけ泣け。」
巨人の餌食になった仲間達の姿が過ぎる。胸が引き裂かれそうな程の、強い悲しみ。
どんな理由であろうと同じだ。エマだってこの悲しみと直面し、乗り越えなければいけない。
それが、自分達がした選択なのだから。