第33章 決意の裏側
翌日。
悲劇は突然にやってきた。
エマとリヴァイがエルヴィンに連れられやってきたのは、エマが日常的に世話している花壇の隣。例の井戸の前だ。
その光景にリヴァイもエマも目を疑った。
二人の足元にあったはずの井戸…ぽっかり落とし穴のように空いていた朽ちかけのそこには、大量の土砂が埋まっていたのだ。
地面と同じ高さまで隙間なく埋められた土砂は凹凸なく均一に均され、人の手でなされたのは明らか。
そしてここまで綺麗に埋められてしまっては、掘り起こすことは現実的に不可能だろう。
「誰の仕業だ?」
「分からない。ミケが昨日の早朝通りかかって見つけたんだが、その時にはもうこの状態で周りには誰もいなかったと。それとなくハンジとモブリットが犯人を探してくれているから、近いうちに分かると思うが…」
リヴァイは目線をエルヴィンから横のエマへ移す。彼女は言葉を失いショックを隠しきれない様子だった。
…無理もない。
故郷とを繋ぐ唯一の道が突然絶たれてしまったのだから。
こっちの世界で生きていく覚悟を決めたと言っていたが、完全に帰る手立てを奪われてしまった今、彼女に降りかかった衝撃は計り知れないはずだ。
「エマ…すまない。私の注意不足で故郷への道を奪ってしまった。」
「いえ……団長のせいでは決してありません。それに私はここで生きていくと決めてますから…大丈夫です。」
エマはエルヴィンを見据え、はっきりとした口調で答えていた。その瞳は言葉通り揺るがない意志を宿しているように見えるが、リヴァイは彼女自身も気づかないような小さなサインを見逃さなかった。
「…とりあえず、誰が何のためにやったのか判明したらまた報告する。」
「分かりました」
エルヴィンが去り、無言で井戸を見つめるエマの右手をリヴァイは包んだ。
「強がってあんなこと言ってんじゃねぇよ。」
「……強がってなんかないですよ」
エルヴィンと話していた時、腿の横で握り込まれた拳。
その微弱な振動が、リヴァイの掌にはしっかり伝わっている。
「そもそももう、帰る必要なんて」
「エマ」
名前を呼んで、漸く目が合った。