第33章 決意の裏側
「団長の話って、なんだったんですかね?」
「さぁな。仕事に関することで、旅行帰りの俺たちに気ぃ使って今日は止めといてくれたんじゃねぇか?一応今日まで休みだしな。」
「あぁ…確かに」
「まぁ明日になりゃ分かることだ。今アレコレ考えたって仕方ねぇよ。」
「それもそうですね」
紙を捲る音とたまに筆先が滑る音、そして二人のどちらかが動く度ギシ、と軋む音がするだけの静かな部屋。
背中に密着した体温と耳元で響く低音に、エマの小さな心臓は忙しなく脈を打つ。
「あの、リヴァイさん…」
「なんだ」
「やりにくくないですか?やっぱり私お」
「構わん。ここにいろ」
「でも…」
エマが軽く身を捩ると回された左腕が腹に食い込む。
簡単には抜け出せない力で、エマは再び身体の自由を奪われた。
「誰か入ってきたらどうしよう」
「別にいいじゃねぇか。俺は気にしない」
「またそれですかぁ…」
リヴァイさんがよくても私は困るんだけれど…と言いたい口を引き結ぶ。言ったらまた彼の加虐心に火をつけて、益々行動がエスカレートしてしまいそうだ。
エマは大人しく身を預けた。
そう、執務机の椅子に座るリヴァイの膝の上に。
エルヴィンが出ていって早々リヴァイに手招きされたかと思うと、“少し仕事する”と言い膝の上に座るよう指示された。
何故いきなり膝の上なのか。
第一仕事するのに膝の上なんかにいたら完全に邪魔じゃないかと言ったが、リヴァイは有無を言わさずエマの腕を引き座らせてしまったのだ。
こうなってはたぶん何を言ってもリヴァイが満足するまで降ろしてはくれないだろう。だからエマは諦めて、大人しくちょこんと座っているというわけだ。
「また明日から日常だ」
「そうですね…でも、旅行は本当に楽しかったです!」
「お前が楽しんでくれて俺も満足だ。」
「フフ…本当に、リヴァイさんと特別な思い出ができて嬉しい。」
「あぁ、俺もだ」
後ろを向きリヴァイと視線が絡むだけで自然と顔中の筋肉が緩む。近づいてきた唇を静かに受け止めた。
ペンを置く音がして、それから右腕もエマを抱きしめた。
きゅ、と力がこもると同時に口付けは深さを増し、静まり返った部屋には椅子が軋む音と、ふたつの湿った息遣いだけが残される。