第33章 決意の裏側
エマが胸を撫で下ろしていると、リヴァイを挟んで横からフンと鼻で笑う声がする。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ。」
「いや…お前もつくづく惚れた女には弱いんだな、と思っただけだ。」
「…ハッ、勝手に言ってろ。」
ミケの挑発じみた物言いには眉ひとつ動かずカップを啜るリヴァイだが、ばっちり会話が聞こえていたエマは一人頬を染めた。
リヴァイはそれに気づくと周囲にバレないよう背もたれとエマの背中の間へ手を滑り込ませ、細い腰を少し引き寄せた。
「!!」
驚いて反射的にリヴァイを見たエマだが、彼は涼しい顔のままカップを揺らしている。
いきなり何これ…?!
脈略のない大胆行動にエマは混乱する。
思惑はよく分からないけれど、骨ばった手が触れている腰と、自分の顔が熱くなっていくのはよく分かった。
ちょうどその時、扉がノックされた。
リヴァイの手がするすると戻っていく。エマは安堵したが、同時に少し物足りなさを感じた自分にまた驚いた。
「はーいどうぞどうぞ!」
何故かハンジが返事をして、入ってきたのはエルヴィンだった。
「珍しいこともあるもんだな。」
目を見張ったエルヴィンは開口一番そう漏らした。
リヴァイの執務室に人が集まることはあっても、こう和やかにお茶しているのはあまり見かけない。しかも集まるといえば大抵、リヴァイ班の招集ぐらいだ。
「リヴァイ、すまないがこれだけ今日頼む。」
「あぁ」
執務机に持ってきた書類を置くと名前を呼ばれた。
「あの、団長もよかったらどうぞ!」
エマは席を立つが、エルヴィンはやんわりそれを制し、エマが仕事に使っている椅子を持ってきて腰掛けた。
差し出されたのは丸くて白いパン。見るからに柔らかそうで芳醇な香りは、エルヴィンの胃袋を甘く刺激する。
「ありがとう。ひとついただこうか。」
口の中に入れれば羽のようにふわふわした口当たりと優しい甘さが癖になりそうな逸品で、エルヴィンも他の皆同様舌鼓を打つ。
「これは素晴らしいな。」
「美味いよね!美味いよねーエルヴィン!」
ハンジはエルヴィンに頷きながら残りを詰め込んで、すぐまた新しいパンを手に取っていた。