第33章 決意の裏側
「これほんと美味い!美味いよぉ!」
「分隊長!食べ方が汚すぎます!」
「微かにミルクの香りがするな…」
「さすがミケさん!このパンには牧場の牛さんのミルクが練り込まれて有るんですって!」
「なるほどな」
兵舎へ帰って早々、リヴァイの執務室にはエマの他にハンジ、モブリット、ミケの姿。
帰りがけに宿の奥さんが持たせてくれたのはエマが絶賛していたパンだった。それを、せっかくなら皆にも食べて欲しいというエマのはからいでたった今振る舞われているのだ。
「頼むからもう少し落ち着いて食べてください!」
ハンジの回りの惨状に冷や汗をかきながらモブリットは恐る恐る前方を見やると、危惧していた通りの彼の表情に背筋を凍りつかせる。
「ぶ、分隊長!ここはあなたの部屋じゃないんですから、本当もう少し」
「モブリット、いい。コイツには後でピカピカになるまで掃除してもらうからそんなに気を揉むな。」
静かにカップをソーサーへ戻しモブリットを制すリヴァイの顔は怖いくらいに無表情だ。
そしてその顔が隣のハンジへ向くと表情は一気に冷酷無比なものに変化した。
「いやぁこんな美味い店どうやって見つけたのさリヴァイ!今度私もぜひ連れて」
「クソメガネ。そんなに美味いんなら床に落ちたカスも丁寧に舐めとって食べれるよな?その後は俺がいいと言うまで永遠拭き掃除だ。てめぇの汚ぇ唾液汚れがきれいさっぱり落ちるまでな。」
「分隊長!」
「兵長…!」
殺気の篭った低音にモブリットとエマは焦るが、当の本人は全く意に介さずただ忙しそうに顎を動かしているだけ。
「分かってるよーリヴァイ!後でちゃんと片付けるから!それよりせっかくいい気分で旅行から帰って来たのに眉間に皺寄せてちゃ台無しじゃない!」
「てめぇ…誰のせいで…」
リヴァイのこめかみにピキと青筋が立つ。今にも堪忍袋の緒が切れてしまいそうだ。
「へ、兵長!気持ちは分かりますけどせっかく皆もいい気分なんだし…ほら!ハンジさんも後で掃除するって言ってくれてますし!ね?!」
隣に座るエマが必死にリヴァイを宥めた。モブリットは祈るような気持ちで見ているが、ハンジは相変わらずだしミケは黙々とパンを口に運んでいるだけ。