第6章 秘書のお仕事
リヴァイの執務室から食堂までは遠い。
2階から階段を降りて、長い石造りの廊下をしばらく歩き、中庭の前を通って、またしばらく同じような石造りの廊下を歩かねばならない。
しかしエマは、この道のりを結構気に入っていた。
執務室はほかの兵士たちが出入りする建物とは別なので、この廊下を歩く者は幹部か、それらに用がある者くらいしかいない。
だからあまり人と出くわすこともなく、ゆっくりと考え事をしながら、また時には何も考えずにぼーっと歩くのにはうってつけだった。
この中庭が見渡せる廊下も好きだ。
冬の冷たい空気の中に暖かな陽の光を感じながら歩くことは、何かと部屋に篭もりがちなエマにとって良い気分転換になっていた。
ちょうど中庭に隣接する廊下を通りがかった時、中庭の奥に見える兵舎の門に人影が二つ見えた。
ここからは少し距離があるし薄暗いが、背丈とシルエットでそれが誰なのかはだいたい分かってしまった。
「エルヴィン団長!リヴァイ兵長!おかえりなさい!」
人影の正体が二人だと分かると、エマは門まで駆け寄り声をかけた。
「ただいま、エマ。寒いのにわざわざ出迎えてくれたのか、ありがとう。」
「ちょうどお二人の姿が見えたので。お疲れ様です。」
エマは馬を引いて歩く二人に微笑む。
「お前もご苦労だった。今日は一人にさせてすまなかったな。」
「いえ!幸い滞ることなく進められたので問題ありませんでした。あ、兵長、鍵を。」
エマが執務室の鍵をリヴァイに手渡すと、短いやり取りを横で見ていたエルヴィンが口を開いた。
「“兵士長の秘書”がもうすっかり板についているようだな。」
「エルヴィン、こいつはめちゃくちゃに出来るやつだぞ。」
「そうなのか、それはぜひとも私の傍にも置いてみたいものだね。」
「生憎、俺の手伝いで手一杯だから無理だな。」
「それは残念だ。私はいつでも歓迎しているからね、エマ。」
エルヴィンは静かにエマへと近寄ると、その大きな手を徐に彼女の頬に添えて目を細めた。
エマの体が小さく跳ねる。
「え?あ、はい!私で良ければいつでも…」
エマはすっかり赤みを帯びてしまった頬を気にしながら答えるのであった。