第33章 決意の裏側
「あんたも彼のこと、愛してるんだろ?」
それでも奥さんはエマの否定など聞こえていないかのように畳み掛けてくる。
決して嫌味な感じではなく嫌な気はしないが、質問の内容が内容なだけに口籠もっている間に熱は顔中へ集まってしまった。
「……はい…」
今回ばかりはリヴァイお得意のポーカーフェイスが欲しいと強く思う。
耳まで真っ赤なエマに奥さんは益々嬉しそうに笑った。
「あんたはさ、彼との出会いは偶然か、必然か、どっちだと思う?」
「え…?」
唐突な問いかけに、エマはじっと考えた。
リヴァイとこうして一緒にいられるのは…ありえない偶然と自分がしてきた小さな選択が積み重なった結果だと思う。
そもそももしもあの時、あの井戸に手を伸ばしていなかったら、あの猫を追いかけていなかったら、この世界に来ることさえなかった。
「偶然…というか、奇跡だと思います。」
エマの答えに奥さんは“そうかい”と柔らかく頷き、話だした。
「あたしはね、必然だと思うんだ。今の主人に出会ったのは。」
「…どうしてそう思うんですか?」
「分からないからさ。夫と出会わずして生きる自分の人生が、少しも想像できない。まぁ経験してないことは想像すること自体難しいんだけどさ。それでも、夫の隣は特別居心地がいいんだ。ずっと探し求めていたあたしの居場所だったのかもしれないね。」
それはまるで引き合う磁石のように。
お互いがお互いを求めて、旅をしていた。その道の途中のハプニングも分かれ道をどちらへ進むかも、全部相手へと繋がっていたんじゃないかと奥さんは言う。
「運命だとかそういうことはあんまり信じるタチじゃなかったんだけどね、夫のことに関してはそういう風に考える時がある。」
“こんなことが言えるのはきっと、それなりに幸せだからなのかもね”と付け足した奥さんは、淡い恋心を抱く少女のような顔をしていた。
「奥さんはご主人にすごく、愛されているんですね。」
「お互い文句ばっかりだけどね!」
ハハハと自嘲する奥さんを見るエマの心には、温かいものが拡がる。
やっぱり奥さんとご主人はとても素敵な関係だ。