第33章 決意の裏側
瞼の奥は寝ぼけ眼なんかではなく完全に焦点が合っていて、じっとエマを捉えていた。
「おはよう…ございます…」
「…アレで終わりか?」
パチリと開いたリヴァイの瞳に妖しさが宿ると、エマの心臓は飛び出そうになる。
「起きてたんですか!!」
激しく狼狽るエマにリヴァイは楽しそうに鼻で笑った。
「い、いつから?!」
「腕の中でゴソゴソ動いてた時からだ」
「うそ…ほとんど最初からじゃないですか!!」
「キスのひとつでもしてくれるのかと思ったが…残念だな」
「なっ!!」
残念そうに呟くリヴァイだが口角は上がっている。エマはみるみる赤面した。
いつもの如くリヴァイは面白がっているようだけれど、エマにとってはただの辱めでしかなくて、勘弁してくれという気持ちだ。
「そんなこと…できるわけないじゃないですか…」
「昨日は散々自分からねだってたくせに、か?」
「あ!あの時は色々いっぱいいっぱいで気が付いたらその、勝手に動いてたし今とは全然状況も違うし、とにかく…」
寝顔にキス、なんて…!!
つらつらと言い訳を並べながら脳内には数分前の光景が蘇った。
「っ!!」
少年のようなあの寝顔に唇を重ねる自分を想像した瞬間、体温は急上昇する。火が出てしまいそうな顔を両手で覆った。
「うう…もう、からかわないでくださいよ…」
「馬鹿言え。こっちは真面目に言ってる」
嘆いているといきなり手首を掴まれた。
「エマ」
掌が顔からゆっくり剥がされる。
赤ら顔なんて見られたくないと思っていても、柔らかな低音で名を呼ばれ、身体の一部に触れられただけでエマは即 従順になってしまうのだ。
エマの瞳は真剣に見つめる銀鼠色の瞳と交わった。
エマは吸い寄せられるように首を伸ばし、薄い唇へと唇を重ねた。
すると上唇を優しく喰まれ、すぐに蕩けるような甘いキスへと変わる。
そうして何度も啄むような口づけ交わし逞しい腕に抱擁されれば、エマは恍惚として、こみ上げる想いも迷うことなく口にしてしまう。
「リヴァイさん…好き」
返事のようにまた唇へキスが落ちる。
二人だけの朝は、どこまでも続く浅瀬のせせらぎのようにゆったりと流れた。