第33章 決意の裏側
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ふと、何かが触れているのを感じる。
あったかい……それに、
触覚が機能し始めたら次は嗅覚だ。
この匂い…
深海に潜り込んだように沈んでいた意識が浮かんでいく。
そして暗い海から顔を出した瞬間、エマは幸せで満ち足りた。
触れていたのはリヴァイの肌だ。
その逞しい躰にエマはすっぽり包まれていて、密着した素肌から温度が伝わる。
荒海のような夜から一転、凪いだ海の如く静けさに包まれた朝。
何度も激しく愛を確かめ合った身体は鉛のようだが、心はとても軽やかだった。
とても幸せな夜だった。
エマは一人綻びリヴァイの胸に顔を埋める。
硬い筋肉に覆われた胸は穏やかに上下していて、ふとあることに気がついた。
これは、チャンスかもしれない。
寝顔を見られるチャンス…エマはリヴァイの寝顔を一度も見た事がなかった。
自分より遅く寝てもどれだけ疲れていても、リヴァイはいつも先に目を開けているのだ。
だから叶うことなら見てみたいとずっと思っていた。
これは千載一遇の好機だ。
そう思ったら行動を起こさずにはいられなくて、エマは慎重に体を離し上を向く。そして見た瞬間 目は奪われた。
普段の粗暴な彼も、ベッドの上での獣性的な彼も想像できないような無防備な寝顔が横たわる。
数時間前まで愛を囁き幾度となく合わせた唇も、激しい劣情を燃やしていた瞳も固く閉じ、静かに眠る顔はまるであどけない少年のようだった。
母性が働き守ってやりたい衝動にすら駆られる。気付けば自然と手が伸びていた。
サラ…
鬱陶しそうに目にかかっていた前髪を流し、貴重な寝顔を独り占めする。
微動だにしない表情筋と均一な呼吸。深い眠りの中なのだろうか?
頬が緩まった。
ただの寝顔も愛する人のものというだけで、こうも幸福を感じるのか。
エマはもう一度髪に触れた。今度は耳の上の辺り。
柔らかくて細くて、サラサラ流れる黒髪。
表面を撫でるだけに留めていたが、段々欲が出てくる。
その手をとうとう、頬へ滑らせた。
キメ細やかな肌は予想より冷たくて、自分より体温低いのかななんて思いながら添えていると、突然伏せられたまつ毛が揺れエマの心臓は飛び跳ねた。