第32章 北の地にて ※
「そ、それとこれとは関係な…きゃっ!」
何とか反論しようとしたが、そんなの全く気にしない様子のリヴァイに腕を引っ張られ椅子に座らされてしまった。
「つべこべ言ってねぇで言う通りにしろ。」
「…っ………よろしくお願い、いたします…」
椅子に座らされ、いつもの有無を言わさぬ瞳に言われてしまえばエマはもう降参する他ない。
無駄に丁寧な挨拶をするとリヴァイは満足げな顔をして、手際良く石鹸を泡立てエマの肩に乗せた。
「あの、適当でいいですからね…?」
「馬鹿言え、俺を誰だと思ってやがる。」
「……お、お掃除好きのお綺麗好き…ですか?」
「その通りだ。隅々まで綺麗にしてやるからじっとしとけ…」
「…はい」
「……」
「………」
始まって早々に会話が途切れてしまった。
リヴァイは黙々とエマの首から肩、背中と順に手を滑らせている。
話でもして気を逸らさなければついリヴァイの手先の動きに意識がいってしまう。
しかしエマは心臓ばかりが煩く鳴るだけで口は一向に動かなかった。
二の腕から手首までを滑り掌を包み込む手。やはり自分より大きくて男らしさを感じる反面、動きはしなやかで繊細だ。
その滑らかな動きは変な意味ではなく文字通り気持ちよくて、最初は戸惑いを隠せなかったエマもそんな感情は徐々に薄れ知らず知らずのうちに目を閉じていた。
リヴァイはいつもたくさん触れてくれるが、その時とはまったく違う感覚。
この優しい手に全て任せてしまいたくなる。
「はぁ……」
「…どうかしたか?」
「…ん、きもちいなって……?!」
勝手に漏れたため息にも気付かずリヴァイの声で我に返る。
目を開ければ跪いたリヴァイが見上げていて、手は胴体へ差し掛かろうとしているところだった。
「っリヴァイさん!」
「なんだよ急にでけぇ声出しやがって…」
「その…ここからは自分で!」
胴体…つまり腹とその上には胸。それにリラックスしすぎて忘れていたが臍の下の下腹部も。
リヴァイに胸や下腹部まで洗われることを想像した瞬間エマはパニックだ。
隅々まで綺麗にすると言われたがさすがにここまでは申し訳ないし、何より…何より自分自身が一番恥ずかしい!