第32章 北の地にて ※
―心臓、止まるかと思った…
「オイオイ、何だその全く色気のねぇ声は…」
「そ!そんな直球で言われたら誰だってこうなります…よ…」
数秒前のシーンを思い出しエマは羞恥で言葉も尻すぼみになってしまった。
“ベッドの上で愛してやる”だなんてどこかの恋愛小説でしか聞いたことないような台詞を、よくもまぁさらりと…
その台詞にまんまとハートと射貫かれてしまう自分も自分なのだが。とにかくリヴァイの愛の囁きはある意味心臓に悪い。
「安心しろ。期待を裏切るような真似はしねぇよ。」
「っそんな期待なんて!」
「ハッ、どうだかな…」
意味深な笑みを浮かべながら湯船を出てシャワーの湯加減を見だしたリヴァイ。
さっき言われた言葉が脳内をぐるぐる回りながらその光景をぼうっと見つめていると、低い声が浴室に響いた。
「おい何してる。お前もさっさと来い。」
「え?リヴァイさん先に洗うんじゃ…?」
ここは部屋に備え付けの浴室だから洗い場は一つしかない。
だからリヴァイが終わるまで湯船にいようと思ったのだけれど…
「は?何言ってやがる。洗ってやるから来いって言ってんだ。」
益々低く険しくなる声にエマは目を白黒させた。
「いやいやいやいや!!そんな、体くらい自分で洗えるのでだいじょ」
「分かりきったことをピーピー言うな。いいから早く出てこい。寒いだろうが。」
狼狽えながらも丁重にお断りしようとしたが、語気を強めたリヴァイに寒いとまで言われてしまえば、エマは大人しく従う他なくなってしまう。
エマは恥ずかしい部分がなるべく視界に入らないよう前屈みになりながら近づいた。
「今更隠しても遅ぇだろうが…」
「そうなんですけど!でもやっぱり恥ずかしい…」
湯船の中だってなんなら抱きしめられていたというのに、いざ外で裸体を晒すとなると途端に羞恥心が芽生えてしまう。
向かい合うリヴァイの視線が痛い。
両手で隠してはいるもののタオルのように完璧に隠せる訳ではない。
「いつも素っ裸で善がってるのはどこのどいつだったか…?」
「……っ!」
意地悪な眼が向けられエマはギクリとした。