第32章 北の地にて ※
「花吹雪ー!!」
ひらひらゆらゆらと落ちていく無数の丸い花びら。
その奥には子供のように笑う少女の姿。
わずか数秒の事だがそれはスローモーションのように映る。
神秘的にすら感じる、とても幻想的で美しい光景。
最後の花びらが落ちるまで、リヴァイは見開いた瞳を瞬くことさえ忘れてしまっていた。
「びっくりするじゃねぇか…」
「びっくりさせたかったんですよ!リヴァイさんの頭桜の花びらいっぱい!」
リヴァイの頭上に手が伸びて髪に触れた。
ふわりと香る甘く優しい匂いに鼓動は無意識に速くなる。
「リヴァイさんに桜の髪飾りー!」
「俺で遊ぶんじゃねぇ」
「ほら!私も付けてるからおそろいです!」
エマが自身のこめかみを指さすそこにはサクラの花が添えられていた。反対の手でリヴァイのこめかみにも同じ花を添えている。
「こうして見るとリヴァイさんも意外とお花似合いますねっ!」
「それは褒めてるのか貶してるのかどっちだ」
「褒めてるに決まってるじゃないですかぁ!」
こんなことエマ以外の人間がやれば即刻削ぐ案件だが、この時の俺は不機嫌になるどころか愛しさが溢れてやまなかった。
幼い少女のような笑顔。
風に揺れる柔らかな髪、細めた目の周りに寄る皺、ほんのり色づいた頬。そして紅く瑞々しい唇。
エマという人間を形作る全てが堪らなく愛おしく、理性はいとも簡単に崩れていく一
こちらに伸ばしていた手を掴みそのまま引き寄せ、俺はエマの唇を奪った。
溢れそうな想いはどうにかして外へ出さなければ苦しくなるが、俺は結局いつもこういうやり方しかできない。
でもこれでいい。言葉で伝えるよりも行動で伝える方がより伝えられるし、伝わる気がするから。
エマの唇はすぐに緊張を解かしキスを受け入れる。
頭の後ろへ手を回し、触れ合う部分から伝わる温度と感触を永遠のものにしたいと長く永く、口付けを交わした。
「……リヴァイさん…」
無意識そうに名前を呼ぶエマはさっきまでの天真爛漫さはどこかへ消えていて、潤んだ目で静かに見つめるだけだ。
そんな彼女の耳元で咲く花に触れながら、俺はひとつ頼み事をした。
「エマ、目を瞑れ。」