第32章 北の地にて ※
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「リヴァイさん早くー!」
畔へと駆ける背中がくるりと振り返った。
「そんなに急がなくてもまだ時間はたっぷりあるだろ。」
「そうなんですけど、でも」
こんなに綺麗な景色、1秒でも早く一緒に見たいじゃないですか!
満面の笑みの少女の足元には小さな白い花の絨毯。頭の上では薄桃色が咲き誇っていた。
淡い黄色のワンピースが白にも薄桃にもよく映える。
そよぐ風に裾を揺らしながら軽快に歩くエマは まるで花の周りを舞う蝶のようで、その可憐さはこの上ないほどリヴァイの胸を焦がした。
「リヴァイさんここ!座りましょ!」
「あぁ」
エマに促され倒れた古木に腰かける。
隣に座ったエマは気持ち良さそうに身体を伸ばした。
「気に入ったか?」
「はい!とっても!こんな素敵な場所どうやって見つけたんですか?!」
「訓練でこの辺りに来た時たまたま見つけた。花が好きだから喜ぶかと思ってな。」
それはまだ特別作戦班が発足したばかりの頃のこと。
班の強化訓練で訪れたことがあり、その時に見た今日と同じ光景にリヴァイもまた目を奪われたのだ。
髪結が千切れてしょぼくれる彼女を見たあの朝、リヴァイはここに連れて行こうと決めた。
エマは毎日欠かさずに花壇の手入れをしたり、どこからか摘んできた花を時々執務室に飾ったりしているから花は好きなはずだ。
だからきっとこの景色も喜んでくれるだろうと思ったのだ。
肩を落とす彼女にまた新しい思い出を作ってやれればと、そう思って。
「そんなこと思って…嬉しい。本当に言葉で言い表せないくらい素敵な場所です。」
「なら良かった。満足するまでいくらでもここにいればいい。」
そう言うとまん丸な瞳をキラキラ輝かせるエマ。それを見れば自分の頬も自然と緩む。
思った以上の反応に 連れてきて良かったとリヴァイもとホッと安堵したのだった。
「リヴァイさんっ」
暫く古木に座り景色を眺めていると背後で弾んだ声がする。
そういえばさっきから姿が見えずどこへ行っていたのだろうと振り返ると、ニコニコ笑うエマが立っていた。
すると突然、エマの両手がバッと上に広がる。
その刹那 リヴァイの視界はピンク一色となったのだった。