第31章 可愛い我儘?
「あの時はまだ兵長とは何にもなかったけど、初めてプレゼントしてもらったものだから、思い出の品が壊れちゃったのが悲しくて…
でもずっと使ってたらいずれは千切れちゃいますよね。残念だけど仕方ないです。」
「っあーーーもう!」
「ぐぇっ!ちょ、ハンジさんっ?!」
突然大声を出したかと思えば首に腕が回りギュンと引き寄せられ、頭を犬のようにわしゃわしゃ掻き乱される。いきなりどうしたと言うのだ。
「私はね、エマのそういう純乙女なところが可愛くて仕方がないんだよお!」
どうやらまたハンジの変なスイッチを入れてしまったらしかった。
「もうさもうさ!リヴァイにそんなこと言ったらあいつその場で押し倒しちゃうんじゃないの?!エマのあまりのいじらしさに!」
「今朝言ったけど、別にそんなことされませんでしたよ?」
「なにぃ?!私だったら今ので完全理性失うけど…っていうかもう失いかけてるけど…」
「なんでハンジさんが理性なくすんですかぁ!」
何故か鼻息を荒くするハンジがおかしくて、彼女の肩に寄りかかりながらエマは笑った。
「じゃあさ、リヴァイはなんて言ったの?」
「え?」
ー思い出なんざこれからまた作りゃいいだろ、いくらでも。
言われた台詞を思い出してエマの胸はまたきゅんとときめく。
リヴァイは何気なく言ったのかもしれないけれど、この先もずっと傍にいていいと、傍にいてやると言われているようで、そう考えたら嬉しくないはずがないのだ。
「またいくらでも思い出作ればいいだろう…って。」
言いながら一人赤面してしまった。口に出すとなんだかむず痒くて恥ずかしい。
「ひゃー!リヴァイの口からそんな台詞が出るなんて想像もできない!エマもこの際、彼に甘えてデートとか連れてってもらったらどう?」
「デート?!」
「そう。二人はしたことあるの?デート。」
「うーん…」
デートっぽいことといえば自分の世界に戻ったとき行った温泉だろうか。
でもあれはリヴァイへの日頃の感謝を込めて自分が一方的に計画したのだ。果たしてそれでもデートと言えるのだろうか…
そもそも今まで付き合った経験もなければ異性とそういうプロセスを踏んだこともほぼないエマには、デートの定義がよく分からない。