第31章 可愛い我儘?
アデルともっと違う出会い方をしていたら、こんな結果にはならなかったのだろうか。
リヴァイは躾る価値もない奴だと言っていたけれど、本当にそうだったのだろうか。
自分の人生などもうどうでもいいと言っていたアデルの、少し悲しげな顔が記憶を掠める。
彼ともっとちゃんと話をしてみたかった。
「アデルは…根は悪い人じゃないと思うんです。ただ色々な境遇とかタイミングが悪いだけだったんじゃないかって………書庫の一件は怖かったけど、彼を恨んだりしてないです。」
エマの話にハンジは一瞬驚いた顔をするがすぐに目を細めた。
「エマは優しいんだね。確かに私も彼が悪人だとは思わない。でもかと言って、エマにしたことは許されることじゃない。未遂だからいいだろうとか言う馬鹿もいるけどエマを傷付けたことに変わりはないんだから。
だから、私は彼はやはり兵団には居るべきではないと思うね。」
「ハンジさん…」
「どんな理由だろうと犯してしまった罪は償わないといけない。大なり小なりね。」
何とも言えない複雑な顔のハンジ。
エマの気持ちを汲んだ上での、精一杯の返しだった。
ハンジの言うことは最もだ。
自分を傷つけたこと云々は二の次でもいいとして、規律を乱した事実は変わらない。
組織に属する人間として、それ相応の償いは必要なのだ。
「アデルには、新しい場所で前向きに生きていって欲しいです。」
「そうだね。」
赤褐色の優しい眼差しに笑顔を送る。
いつまでもジメジメした気持ちでいてはだめだ。
エマは残りのスープを飲み干すと、ぱち、と手を鳴らしてご馳走様をした。
「そういえば全然関係ないんだけど、髪結んでないの珍しいよね?イメチェン?」
「あ、実は結んでいた紐が切れちゃって、」
今朝のショックをまた思い出して少ししゅんとしてしまった。
リヴァイに初めてもらった大切な大切な髪結。
「へえ、そうなの。ってめっちゃしょんぼりしてるじゃん!そんなに気に入ってたの…?」
「すごく思い入れのある髪結だったんです…」
「リヴァイに貰ったとか?」
「ハハ、相変わらず鋭いなぁハンジさんは。」
いつの間にか空になったハンジの皿も一緒に重ねながら、エマは眉を下げて笑った。