第31章 可愛い我儘?
「喧嘩してたんだろ?二人とも歓迎会途中でいなくなっちゃったし、次の日何となく様子がおかしかったからさ。」
ニシシ、と笑いながらわしゃわしゃと頭を撫でられる。
まさか喧嘩のことがバレていたなんて…
意外な人物からの鋭い指摘に、エマは苦い顔をしながらスープを口に運んだ。
「ハンジさんの目は誤魔化せるようで誤魔化せないんですね。」
「無駄無駄!エマのことはよく見てるからね、リヴァイに負けないくらい!」
「ハハハ、さすがハンジさん。
喧嘩…まではいかないけど、ちょっと言い合っちゃって、」
エマは一連の話をした。
エマが真剣に話すときは、いつでも真剣に耳を傾けてくれるハンジ。
時には的確にアドバイスをくれたり、時には気にするなと明るく励ましてくれたり。自分よりだいぶ年上だが、彼女はいつも対等な立場で話を聞いてくれる。
だから人には言いづらいことや胸の内でも、ハンジには安心して話せるのだ。
「…そんなことがあったのね。まぁでもエマの気持ちも分かるよ。アデルに裏切られたショックも大きかっただろう。」
「…はい、まぁ……」
昨日エルヴィンにはアデルのことは話した。
とは言ってもリヴァイがデリケートな話だからと気遣ってエルヴィンに伝えてくれたから、自分が直接話したわけではないけれど…
その後アデルからも証言を聞き、正式に彼の処遇が決まるとのことだった。
もう話はついたのだろうか。
「やっぱり退団命令が下るんですかね…」
眼鏡の奥を見つめると、彼女は手を顎に添えうーんと唸った。
「まだ正式決定じゃないんだけど、エマは当事者だし言ってもいいかな…アデルは依願退団を希望してる。」
「…そう、ですか」
依願…とはアデルの意思で団を去るということだ。
どんな形であれ彼の退団に自分が関与してしまったとなると、心境は複雑である。
「今回の件は彼自身の責任だとしか言い様がない。依願しなくても退団命令だったと思うよ。エマが悪いわけじゃないんだし、そんなに暗い顔しないでさ。」
“こういうことって案外珍しい事じゃないんだよ”などとフォローしてくれるハンジを尻目に、エマはアデルのことを考えた。