第31章 可愛い我儘?
何気なく買ってやった髪結にそんなに思い入れがあったとは。
しかもそれは初めて自分が“プレゼント”してくれたという思い出だという。
そんなエマの心を漸く理解すると、彼女のことが可愛くて愛おしくて仕方がなくなった。
「思い出なんざこれからまた作りゃいいだろ、いくらでも。」
「リヴァイさん…」
リヴァイは髪結をエマの手の中に戻し、上から両手を包み込むように重ねた。
顔を上げたエマと視線が絡む。
「エマ」
「何でしょう…?」
「来月に入ったら合同演習が始まる前に二日間の休みがある。二日とも空けておけ。」
「え?は、はい」
「なんだその気の抜けた返事は。」
「いや…改めて空けておけ、なんて変だなって。最近はいつもリヴァイさんと過ごしてるし、何も予定なんて入れませんよ?」
何の気なしに言ったエマの言葉にリヴァイは一瞬何か言おうとしたが、一度口を噤む。
普通空けておけ、と言われたらそういう類の誘いだと思わないのか…?
どうやらエマにはそこまで伝わらなかったらしい。まぁ元々エマはこういうことにはかなり鈍感だから仕方がない。
それに、敢えて何も言わずにおくのもいいかもしれない。
「…念の為だ。いいか?二日丸々だ。例え10分でも何も予定は入れるなよ。」
「?わかりました!」
不思議そうに見上げる頭をくしゃっと撫でれば、パッと笑顔を咲かせるエマ。
差し込む朝日と同じくらいに眩しく無垢な笑顔。つられて緩んでしまったのはこれで何回目だろうか。
愛くるしい額にキスをして、リヴァイはまた洗面所に戻った。