第30章 裏切り
「……ごめ、なさ…」
「もう謝るな。」
唇を離せば頬に添えた両手は濡れていて、彼女の身体は小さく震えていた。
信頼していた奴に裏切られた上に襲われそうになったんだ…エマの受けたショックは決して小さくはない。
「すぐに助けてやれなくてすまなかった。」
書庫へ向かうエマをもっと強く引き止めていれば…と後悔が湧く。しかしエマは大きくかぶりを振った。
「そんなことないです…自分が撒いた種だって言うのに、リヴァイさんはそれでも助けてくれ」
「助けないわけねぇだろ。」
ぶっきらぼうだが優しい声。
見開かれたエマの目からはまた涙が溢れそうになった。
「お前のことがこんなに大切なのに……あんな些細な言い合いで意固地になって…馬鹿だった」
「リヴァイさん…本当は私もずっと、謝りたかったです……でもどう切り出していいのか分からなくて…話すのが怖くて、逃げてました…」
「すまない」「ごめんなさい」
謝罪の言葉が重なって思わず目を見合わせた二人は少し気まずそうに、けれどほっとしたように表情を緩ませた。
今度はちゃんと、素直に思いを伝え合うことができたのだ。
「リヴァイさんあの」
「なんだ?」
「こんなんでも……まだ私の事…好きでいてくれますか…?」
潤んだ瞳で見上げるエマ。
また不安そうな顔して次は何を言うのかと思ったら…
「何馬鹿なこと言ってやがる。嫌いになる理由なんてどこにもねぇだろ。」
「リヴァイさん…」
「俺はお前が好きだ。何度も言ってるが何があったってこの気持ちは変わらねぇ。だがそれ故に…今回ひとつだけどうしても許せないことがある。」
「えっ?」
急に“許せないことがある”などと言われ困惑するエマの身体を持ち上げソファへ沈める。
リヴァイは仰向けのエマに跨ると、はだけたシャツから覗く白い肌に指先を乗せた。
「この身体に、アイツの指一本でも触れさせちまったことが嫌でたまらねぇ…」
「え…?」
「俺は嫉妬深くて執念深い。」
「そ、それは…十分知ってますけど…」
「キスはされたのか?」
「…されました……」
「チッ、あのクソアマが…」
盛大な舌打ち。眉間にこれでもかと皺が寄るのがリヴァイは自分でも分かった。