第30章 裏切り
「チッ、汚ぇな……おい、ボサッとしてねぇで何とか言え。」
「…す…みま、せッガハッ!!」
つま先が脇腹を蹴りあげる。
「答えになってない。俺はここで何してたのかと聞いてる。」
「……さん、を…」
「あ゛?」
「エマ…さんを……襲おうと…すみませ」
また鈍い音と呻き声が響き渡った。
「リヴァイさんもうやめてください!!アデルは…十分反省して」
「お前は甘い。こいつは一度ならず二度までもお前に手を出そうとしたんだ。しかも一度は見逃してやったってのにな…
いいかクソガキ。これは俺なりの躾の方法だ。そもそも根っこから腐ったてめぇなんざ躾る価値もねぇがな……それでもやらねぇと俺の気が済まねぇ。」
リヴァイの目は据わっていて、完全に頭の線がキレていた。
何度目か腹に蹴りを入れられた際アデルは血を吐いた。
エマは狼狽えながらも必死に名前を叫んだが、憤激したリヴァイには届かなかったのか、もう全く止めてくれようとはしなかった。
「なんの騒ぎだ。」
ドス!とまた鈍い音がしたのを最後に部屋は静まりかえる。
ずっと俯いていたリヴァイが静かに顔を上げ、その声の主を見た。
エマは安心して、溜っていた涙が一気に溢れた。
たぶん、この人ならリヴァイの暴走を止めることができるかもしれないと思ったからだ。
「…っ団長…」
「……何の用だエルヴィン」
「何やら派手な音が二階まで響いて様子を見に来たんだが」
「今こいつに規律違反した罰を与えてるとこでな、俺は忙しい。出ていけ。」
意識朦朧としたアデルの腹を踏んづけたまま淡々と語るリヴァイと、その後ろで咽び泣くエマ。
エマはシャツの前を掻き合わせていたが、真ん中辺りまではだけているのが見て取れた。
それを見たエルヴィンは真顔のまま冷静に告げる。
「大事な女の前でみっともない真似はよせ。そんなことをしたって彼女は喜ばない。」
「…てめぇに諭される筋合いはねぇ」
「……リヴァイさん…」
リヴァイの背後でか細い声がする。
振り返ればそこには目の周りを真っ赤にしたエマの姿があった。