第30章 裏切り
今の音は…
間違いなく鍵のかかっていた書庫からだ。
……エマ…?
妙な胸騒ぎがする。昨日の晩と同じだ。
そして大体こういう予感は嫌でも当たってしまうものだ。
そう、昨日と同じように。
まさか…!?
「チッ!!」
頭に一人の男の顔が過ぎったのとほぼ同時に、身体は勝手に駆け出した。
*
…リヴァイさん……助けて……
ドカッ!!バンッ!!
「?!」
「なっ?!ぐはぁっ!!」
それは強烈な破壊音の直後だ。
のしかかっていた重みがスっと消え、飛び起きると何故かアデルが床に転がっていた。
それから目の前を人影が通り過ぎ、エマはその後ろ姿に目を見開いた。
「リヴァ」
「ぐっ……ガァッ!!」
「こんなところで何してやがる」
しかしリヴァイはエマを振り向くことなく、アデルの首を掴み壁に押し付けたまま上へ上へと持ち上げていた。
アデルの足は既に地面から浮いていて、リヴァイの右手にギリギリと首を締められている。
悲痛な呻き声を出すアデルに抑揚のない声が刺さった。
「質問に答えろ。“また”嘘は吐くなよ」
「ガハッ!…ッグゥ…」
見る見るうちに顔面蒼白になるアデルを見てエマはようやく我に返った。
「リヴァイさんやめてください!!」
「お前は黙ってろ」
アデルを見たまま淡々と告げるリヴァイ。
彼の横顔から氷のように凍てついた瞳が覗いて怯む。
でも、
このままじゃ死んでしまう…!!
「やめて!!」
エマはリヴァイの腕にしがみついた。
しがみついて、目いっぱい力を込めて何とか止めさせようと何度も叫んだが、リヴァイは相変わらずエマを見ることはなく力も弱めない。
「もうやめて…リヴァイさん……」
制止の声が震えた弱々しいものに変わって初めて、リヴァイの肩がピクリと揺れる。漸く視線が交わった。
「…黙ってろと言ったはずだ。」
「だって…このままじゃ……死んじゃう…」
足元に転がった男は瞳孔を全開にし涎を垂らしながら激しく咽せ込んでいる。
リヴァイは蹲る男を見下ろしブーツの先でその顔を自分へ向かせると、冷え切った声を放った。