第30章 裏切り
「…う、うん、実は。」
ドキリとしてぎこちなくなってしまったが、エマは頷いた。
「やっぱり!もう長いんですか?」
「ううんそんなに。まだ一ヶ月半くらいだよ。」
「そうなんですね!じゃあまだ付き合いたてで、きっとラブラブなんでしょうね。昨日の兵長見てたらどれだけエマさんにゾッコンなのかも分かったし…羨ましいです。」
「いや…そんなこともないよ。」
ふと喧嘩中なことを思い出して、ついアデルの言葉を否定してしまう。
「…え?」
「あっいや!ごめんなんでもない!アデルにもそのうちきっといい人が現れるよ!」
不思議そうに聞き返えされエマはハッとして慌てて話題をすり替えた。
なんとなく今は…リヴァイさんの話はしたくない。
「いい人…ですか。」
「うん!アデルはいないの?好きな人。」
「…いますよ。」
明るく問いかけたが、返ってきたのはいやに落ち着いた声色。
気が付くと目の前にすらりと背の高い男が立っていた。
爽やかな笑顔は消え、真顔でエマを見つめている。
「どうしたの?急に真面目な顔し…」
エマが状況を理解するよりも先に、囁きは響くのだった。
「俺…エマさんのこと、好き」
「……っ、」
何か発したはずの声は酷く掠れていて、上手く音にならない。
耳にかかる吐息の温かさに体は硬直し、エマは動けなくなった。
「はは、その顔…全然気付いてなかったんですね。」
「……え、と…」
「昨日喋ったばかりだけど、俺エマさんに惚れました。好きです、エマさん…」
「………」
まさか…
まさかアデルが自分を…
全く考えもしなかった展開にエマの思考は完全停止、柔らかく微笑む少年をただ見上げることしかできなかった。
「アデル…わたし……」
何か言わないと、と口を開いたけれどその先は出てこない。
そんなエマにアデルは静かに話し出した。