第30章 裏切り
薄っぺらな軽い本だけれど、それを抱えて歩く足取りは重い。
どうしても居づらくて出てきちゃった…
リヴァイさんの呼び止める声にも気付かないフリをして。
私…何やってるんだろう。
階段の踊り場で立ち止まる。
本を握りしめて唇を噛みしめた。
最初はアデルのことを疑うような発言をしたリヴァイに怒っていたのに、今の自分の中にはもうその感情はない。
代わりにあるのは後悔だけだ。
エマはあの時感情的になってしまった自分を責めていた。
なぜあんなに喧嘩腰になってしまったのだろう。
もっと冷静に言えたはずなのに。
そう思ってもやり直すことはできない。
だからどうにかして関係を修復しないといけないんだけれど、逃げてきてしまった。
「エマ?」
踊り場で立ち尽くすエマに声を掛けてきたのはハンジ。
「ハンジさん…」
「昨日は途中から姿が見えなくなっちゃったけどどこ行ってたのさー?お風呂も一緒に行こうって約束してたのに!」
しまった…お風呂のこと完全に忘れてた…
「あ…すみません、私から誘っておきながら…」
「えっちょっとそれくらいでそんな暗い顔しないで!大丈夫!昨日は結局モブリッドにしつこいほど言われて、ちゃーんと入ったから!
リヴァイに“ドブ”って言われたのもショックだったしね…ほんのちょとだけ!」
ニカッと笑う顔を見たら、淀んでいた気持ちが少しだけ晴れた気がした。けれど、
「あ!!もしかして途中からリヴァイと抜け駆けしてた?リヴァイも居なかったし!ね!そうでしょ?!」
楽しげにそう言われた瞬間、エマは下を向いてしまう。
「いや…違います。」
「そうなの?てっきり二人で“お楽しみ中”だったのかと思ったんだけど…ん?エマどうした?体調悪い?」
心配そうに顔を覗き込むハンジに、エマは急いで顔を作ってパッと上げた。
「いえ!体調は万全です!すみません、ちょっと急いでるので私はこれで…!」
「?あぁわかった。またね!」
思わず顔に出てしまいそうになった。
でもこんなことでハンジさんに余計な心配はかけたくない。
ヒラヒラと手を振るハンジに笑顔を向けて、エマは階段を急いで駆け下りた。