第29章 足音
「リヴァイさんちょっ…!!」
背中に硬いドアの感触が伝わる。
体を浮かせる間もなく頭上に片手をつかれ覆い被さられるようにして逃げ道を絶たれてしまった。
恐る恐る顔を上げると呆れ顔が見下ろしている。
「食堂を出ていったお前の後を追ったらこのザマだ…ったく無防備すぎるんだよ。」
ため息混じりのリヴァイにエマは一瞬肩を竦めた。がしかし。
「すみません…でもアデルは体調悪かったから、一人じゃ立てなくて私の腕を掴んだのかも…」
エマは申し訳なさそうにしながらも自分の考えを述べた。
少しおかしな雰囲気を感じたが、でもとにかく彼はとても辛そうだったしエマはあんな状態で下心を持つことなどできないと思ったのだ。
だから、リヴァイに心配をかけたことは素直に申し訳ないと思ったけれど、アデルのことは簡単にそうとは決めつけないで欲しかった。
しかし対するリヴァイはエマの言い分に眉間の皺を濃くする一方だ。
「さっきのはそんなんじゃねぇ、あいつは否定したが目を見りゃ分かる。
お前は本当に危機感がねぇな…あそこで俺が来なきゃ今頃何されてたか分かんねぇんだぞ。」
「そんなまさか…」
リヴァイの話に耳を疑った。
アデルはとても素直で良い子だ。そんな下衆なこと考えるようには到底思えない。それに…
「彼は本当に辛そうだったんですよ?仮に下心があったとしても、そんなことする余裕はなかったと思うし…いや、そもそも今日初めて喋ったばかりなのにやっぱりそんな風に考えるのは」
やはりリヴァイは少し考えすぎなんじゃないのかと思ってエマは珍しく反論したけれど、ため息をつかれ途中で口を噤んでしまった。
「エマ。お前は簡単に人を信用しすぎだ。一方的な思い込みで物事を見るな。」
「っ……リヴァイさんだって…思い込みで決めつけてるじゃないですか。」
エマは納得できなくてモヤモヤが募る。
「俺のは決めつけじゃねぇ。ちゃんと確信がある。」
「話したこともないのに……アデルの何が分かるんですか?!」
「お前こそなんで気付けねぇんだよ…雰囲気で分かるだろ!」
リヴァイが語気を強めるとエマはショックを受けたような顔をした。