第29章 足音
「…もういいです!」
リヴァイに向かって言い放つと、エマはとうとう彼を振り切って部屋を飛び出してしまった。
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どさり、とベッドに身を沈めて深いため息をひとつ。
「はぁ……」
結果、感情的になってリヴァイと言い合いのようになってしまった。
あの後食堂には戻らず自室へ帰ったエマ。
一人になるとフツフツと後悔が湧いた。
あんな言葉を吐き捨てて出てきてしまって、リヴァイさんは怒ってるかもしれない。いやきっと怒ってる…
子供みたいな態度を取ってしまったことは素直に反省したが、でもそれでも、今はリヴァイに謝りに行く気にはなれなかった。
アデルのこと…あんな風に言わなくてもいいのに。
ベッドに力なく横たわり、揺れる炎を見つめていた。
リヴァイさんはアデルを疑ってたけれど、リヴァイさんこそなんであんな簡単に下心があるなんて決めつけちゃうんだろう。
そんなの本人の口から聞かないと分からないのに…
エマとしてはやはり、リヴァイがアデルに対して疑念を抱いていたことがどうしても納得行かなかったのだ。
気にかけていた後輩のことを悪く言われたような気がして、少し腹が立ってしまったのも事実。
大体、リヴァイさんは心配性すぎな気がする。
自分のことをいつもすごく大事にしてくれるのは嬉しいし有難いしそういう所も好きだけれど、何故か今回はリヴァイの気持ちを素直に受け入れることができなかった。
徐にボフッと枕に顔を埋めて視界をシャットアウトする。
合鍵を貰って一週間。この日は初めてリヴァイの部屋に行かなかった。
…会うの…気まずい
今日は楽しくお酒を飲んで夜はリヴァイとのんびり過ごせたらな、なんて思っていたのに。
部屋に行くことは愚か、明日も普通に顔を合わせるのかと思うと益々気まずくてズシンと気分が重たくなる。
こんな気持ちは初めてで、エマはどう気持ちを切り替えたらいいのかが分からずただ一人モヤモヤと夜を明かすのだった。