第29章 足音
無事質問地獄から抜け出すことができて、トイレに行った後廊下で一息ついていたエマ。
「ふぅ…ひとまず助かった。」
あのままペトラが助けてくれなかったらと思うとゾッとする。
それにしても酔っ払ってるからって、皆悪ノリもいいところだよ…
悪気があってやったわけじゃないから仕方ないけど、正直今のでどっと疲れちゃったな…はは。
大人しくリヴァイ達と居ればよかったかと思ったが、呼ばれたのを無視する訳にもいかないしやはりこうなる運命だったのかもしれない。
エマは苦虫を噛み潰したような顔をした。
窓にもたれかかり、ぼーっと外を眺める。
「…ん?あれは…?」
暗闇に何かを見つけたエマ。
目を凝らすと人のようなシルエットがうずくまっているように見えた。
「誰かいる…こんなところでどうしたんだろう?」
もしかしたら誰かが潰れてしまっているのかもしれないと心配になり、すぐ横の通用口から出てその影の元へ向かった。
「あの…大丈夫ですか?」
月明かりしかない薄暗い場所ではその人物が誰なのか見分けがつかなかったので、エマはそっと近づきながら声を掛けた。
「…あ、」
「エマ…さん」
ゆっくり顔を上げたのはアデルだった。
まさか彼だったとはと一瞬驚いたが、すぐに様子がおかしいことに気が付く。
「アデル…もしかして飲み過ぎた?」
「…はい……ちょっと気分悪くなっちゃって…風に当たろうと思ったんですけど、」
彼の顔は暗闇でも分かるほどげっそりしていて、昼間の明朗快活さは微塵も感じられない。
「大丈夫?…じゃないよね。とりあえずそこのベンチまで歩ける?お水持ってくるからそこで横になって…」
エマはそう言いながら立ち上がろうとしたが、突然その腕をパシっと握られた。
弱々しく喋っていた割に掴む力は強くてエマは少し驚いた。
見るとそこには切羽詰まったような表情でこちらをじっと見つめるアデルがいた。
「アデル…?」
掴まれた腕を軽く振りほどこうとしても、かなり力を加えられていてビクともしない。
昼間とは違う雰囲気に少し怖くなった。
でも相手は今体調が悪いわけであって、無理やり振り払って放っておくわけにもいかない。