第29章 足音
「エマー!!エマはいるかー?!」
「?!」
「誰だ…でけぇ声出しやがって」
しばしの間4人でまったり飲んでいると、どこからともなく突然自分の名前を呼ぶ声がした。
辺りを見回すと、声が上がっているのはどうやら前方のテーブルからだ。
少し腰を浮かせてそっちを見ると、栗色の刈り上げ頭と目が合う。
声の主はオルオだった。
よく見るとテーブルはなんだか異様な盛り上がりを見せている。
オルオはまた何か言いかけたがすかさずペトラに叱られていた。
状況はよく分からないが呼ばれたことには変わりない。
エマはリヴァイをチラリと見た。
「オルオか。呼ばれてんなら行ってきていいぞ。」
リヴァイは特に気に止めていないようだ。
歓迎会前に“ハメを外すな”と釘を刺されていたから行くなと言われると思ったけれど、意外にもあっさりOKが出てエマは驚きつつも嬉しくなった。
気心知れた人と飲むのももちろん楽しいが、せっかくの機会だから色んな人と話してみたいというのもある。
「ありがとうございます!じゃあちょっと行ってきますね!」
「あぁ、楽しんでおいで。」
「呑まれてくるなよ。」
エマはリヴァイと、エルヴィンやミケにも挨拶をして席を立った。
「あっ!エマ!ごめんね、オルオが余計なこと言って。そっち抜けちゃって大丈夫だった…?」
「うん、全然だいじょ」
「おー!!主役の到着だぞ!まぁ座れ座れ!」
呼ばれたテーブルに着くなりペトラが心配顔で謝ってきたが、答える前に割り入ってきたエルドに無理やり座らされてしまった。
テーブルのいわゆる“誕生日席”に座らされたエマから見えたのは、自分に視線を向ける人達のニヤケ顔…
皆一様に顔を赤くして気持ちよく酔っ払っているのは一目瞭然。
エマは相変わらず状況が全く飲み込めなくて一人オロオロしてしまっていた。
「あ…あの…」
「エマ…ごめん。あのね、オルオが喋っちゃったの。」
ペトラがすごく申し訳なさそうに謝ってくる。
一体何のことだろうと頭を回すが全然分からない。
するとエルドがエマを囲う人達に“静かに”と人差し指を立てると、小声で話し出すのだった。