第29章 足音
グラスに口付けながらこちらを見やる流し目が放つ、色気の凄まじさたるや。
液体が喉を通る度に大きく動く喉仏もセクシーで、あまりのかっこよさにエマは軽く目眩を覚えてしまう。
「もう酔ったのか?」
「はっ!い、いえ…!」
「そうか…?顔赤いんじゃねぇか?」
「いえいえ全然!」
顔が赤いのはリヴァイさんの猛烈な色気のせいです…!
と心の中で突っ込むが、そんなことは本人にはもちろん言えないのでとりあえず否定だけしておいた。
開始から一時間ほど経ち場もいい感じに解れてきた。
新兵達もだいぶ打ち解けてきたようで、先輩兵士とざっくばらんに話したり、上官に注がれ続ける酒を真っ赤になりながらも意気揚々と飲んでいたりと各々に楽しんでいる。
「今日は酔ってないのか、エマは。」
斜め向かいのミケが半笑いで聞いてくると、エマは苦笑いを浮かべる。
「あんな失態はもうしたくないですからね…」
「それは残念だ。私も今日は少し期待していたんだが。」
「ハハ、変な期待寄せないでくださいよー。」
隣のエルヴィンは残念そうに眉を下げているがエマはさらりと交わした。
お酒も三回目ともなると、何となくこれ以上はまずいという限界が分かってくる。
エマはリヴァイとの約束を守りたいのもそうだが、単純にもう周りに迷惑をかけたくないと思っていたのだ。
「まぁ今日はあの時の元凶はもういねぇしそう心配いらんだろ。」
リヴァイの視線の先には空席になった二つの椅子。
そこにはハンジとモブリットが座っていたはずなのだが、いつの間やら二人ともどこかへ消えてしまっていた。
「また変な酒忍ばせてたのか、ハンジは。」
どうやらハンジはまた高度数の酒を持ち込んで、今まさに他の兵士に振る舞っている最中らしい。
ミケの言葉に辺りを見回すと、モブリットにジャケットの裾を引っ張られながら他のテーブルに酒を注いでいるハンジがいた。
「……モブリットさん、大変そう…」
「同感だ」
エマが苦笑いで呟けばリヴァイはモブリットへ哀れみの眼差しを向け、他の二人も同様に頷く。
どうやらハンジの酒癖の悪さは毎回のようだ。